シネコラム

第304回 ミケランジェロの暗号

第304回 ミケランジェロの暗号  

平成二十三年十月(2011)
日比谷 シャンテシネ3


 ナチス占領下のウィーンを舞台にした上質の娯楽サスペンス。
 一九三〇年代末期、ウィーンで画廊を経営する裕福なユダヤ人。この画商一族に伝わるのがミケランジェロの幻の直筆デッサン。
 やがて、ドイツ軍によるオーストリア侵攻。デッサンの存在を突き止めたナチス親衛隊が画商一家の屋敷に現れ、絵を要求する。渡せば国外に逃がしてやるが、渡さなければ処刑。イタリアと協力体制をとるため、幻のミケランジェロヒトラームッソリーニにプレゼントする手はずなのだ。絵の存在をナチスに知らせたのが画商の息子ヴィクトルのかつての幼なじみ、元使用人の息子ルディで、彼はその手柄で親衛隊に入隊。画商は仕方なく絵を親衛隊に渡すが、一家の行き先はアウシュビッツだった。画商は死に、収容所に収監されているヴィクトルの元に親衛隊大尉となったルディが現れる。ナチスの手に渡ったデッサンは模写だったのだ。本物のありかを尋問するため、ルディはヴィクトルをドイツへ移送する。
 ところが彼らの乗った飛行機がパルチザンに狙撃されて墜落、助かったのはヴィクトルとルディのふたりだけ。見つかったらパルチザンに殺されると思ったルディは軍服を脱ぎ捨てヴィクトルの縞がら服に着替える。
 ところがそこに現れたのはドイツ軍だった。すばやく親衛隊の軍服を身に着けたヴィクトルを兵士たちは将校として遇する。ここから二人の立場が逆転し、ヴィクトルは親衛隊の大尉としてふるまい、ルディは自分が大尉だと言い張っても、認めてもらえずにユダヤ人として殴られ蹴られる日々。
 ヒトラーアーリア人の優秀さ、美しさを称え、ユダヤ人を劣等民族として抹殺しようとした。だが、着ている服を交換しただけで、見分けがつかなくなるのだ。
 物語はこの後も二転三転して、ミケランジェロの真筆は、いったい誰の手に渡るのか。過酷な時代の悲劇をユーモアとサスペンスを交えて仕立て上げた大戦秘話である。


ミケランジェロの暗号/Mein bester Feind
2010 オーストリア/公開2011
監督:ウォルフガング・ムルンベルガー
出演:モーリッツ・ブライブトロイ、ゲオルク・フリードリッヒ、ウルズラ・シュトラウスマルト・ケラー、ウド・ザメル、ウーヴェ・ボーム、メラーブ・ニニッゼ