第292回 ミッドナイト・イン・パリ
平成二十四年四月(2012)
京橋 テアトル試写室
かつて、冷凍冬眠された現代の小市民が未来世界で目覚める『スリーパー』を自演したウディ・アレンだが、『ミッドナイト・イン・パリ』は『夜ごとの美女』を連想させるタイムスリップものである。
フィアンセと憧れのパリ旅行にやって来たハリウッドのシナリオライター、真夜中の街角でひとり道に迷い、通りかかった古風な自動車に呼び止められて、パーティに誘われる。車の乗客はスコット・フィッツジェラルドと名乗り、パーティ会場には古風な服装の男女。アーネスト・ヘミングウェイ、パブロ・ピカソやT・S・エリオット、サルバドール・ダリにルイス・ブニュエル。そこは一九二〇年代のパリだった。
昼間は現代のパリ市内でフィアンセとオランジュリー美術館やヴェルサイユを見物し、夜になるとひとり古きよき時代のサロンを訪れ、文人たちと語り合う。若き日のルイス・ブニュエルに、パーティの客がだれも外へ出られなくなるという『皆殺しの天使』のアイディアをささやいたり。やがてピカソの愛人のアドリアナと愛し合う。
夜ごとに出かける彼を不審に思ったフィアンセの父親が雇った探偵の運命はいかに。
例によって、ウディ・アレン作品の登場人物たちは実にぺらぺらとよくしゃべる。文学や芸術、歴史や文化についての話題をまるで井戸端会議のおばさんたちのように。
現代人が郷愁を掻き立てられる一九二〇年代のパリ。だが、当時のパリの知識人の憧れは十九世紀末のベルエポックだという皮肉。
やたら知識をひけらかすマイケル・シーンのスノッブを笑いものにしながらも、ウディ流タイムスリップコメディは、ちょっと知的な大衆路線。ウディ・アレンの映画、シリアスよりも、こういう娯楽色の強いものが、私は好きだ。
ミッドナイト・イン・パリ/Midnight in Paris
2011 スペイン・アメリカ/公開2012
監督:ウディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マイケル・シーン、マリオン・コティヤール