シネコラム

第291回 夜ごとの美女

第291回 夜ごとの美女

平成八年九月(1996)
下高井戸 下高井戸シネマ


 谷啓主演の『空想天国』のことを書いていて、ふと思い出したのがジェラール・フィリップの『夜ごとの美女』である。
 ジェラール・フィリップといえば、アラン・ドロン以前の美男の代名詞のような二枚目であり、相手役も絵に描いたような美女ばかり。この時代の銀幕のスターはみな美しかったのだ。
 ジェラールふんするクロードは小学校の音楽教師だが、作曲家を志して徹夜で曲を書いている。だが、現実は厳しく、夜、ベッドの中で成功した夢を見る。
 アルバイトでピアノの家庭教師をしている家の夫人が夢では恋人となり、彼の作曲したオペラが上演されることに。夢の中の世界はベル・エポック、一九〇〇年当時のオペラ座
 さらに次の夢では一八三〇年代のアラビアでラッパ手となり、アラブの姫君と恋をする。その姫君は現実の世界ではカフェのウェイトレス。
 さらに次の夢ではフランス革命直前のパリで貴族の娘と恋をする。これが現実の世界ではアパートの隣に住む自動車修理屋の娘。
 さらに次の夢では三銃士の時代、ダルタニャンの恋人に手を出して決闘を挑まれる。このダルタニャンの恋人が現実の郵便局の受付。
 甘美なはずの夢がいつしか悪夢となり、加速度的に過去へ遡ってとうとう石器時代にまで。
 ところどころで歌が入り、ミュージカル的な要素もある楽しいコメディである。

                  
夜ごとの美女/Les belles de nuit
1952 フランス/公開1953
監督:ルネ・クレール
出演:ジェラール・フィリップ、マルティーヌ・キャロル、ジーナ・ロロブリジーダ、マガリ・ヴァンドイユ、レイモン・コルディ