シネコラム

第290回 パリ、嘘つきな恋

第290回 パリ、嘘つきな恋

令和元年十月(2019)
飯田橋 ギンレイホール

 なんて素敵な恋だろうか。私はベタベタの恋愛映画はあまり好きではないが、フランスのラブコメディ『パリ、嘘つきな恋』には、どっぷりはまって、心ときめいた。
 五十歳を間近にひかえた主人公、独身で金持ちで女好き、ふとした誤解から車椅子の身障者と間違われ、行きがかりで身障者のふりをして、車椅子の美女と知り合い、自分が歩けると言い出せないまま彼女とつきあうことに……。
 身障者が題材ではあるが、重い感動ものにはならず、悪ふざけにならず、展開に思わず「うまい」と唸ってしまった。
 主人公のジョスラン。運動靴の大手販売会社パリ支局長。女性にもてるので、自由気儘に恋を楽しんでおり、特定の恋人はなく本気で結婚など考えていない。
 亡くなった母親の遺品整理に行き、車椅子に座っているところを隣に引っ越してきた美人に見られ、身障者と誤解される。なりゆきで同情を引こうと身障者のふりをしてしまうと、彼女の実家に招待される。いそいそと、車椅子のまま訪問すると、現れたのが彼女の姉フロランス、これが車椅子の美女。ヴァイオリニストだが、どうやら下半身不随。彼女のことが気になって、彼女が出ている車椅子テニスの試合を見に行ったり、わざわざチェコプラハまで彼女の演奏を聴きに行ったり。もちろん、自分用の車椅子を用意して。
 美人で明るく、前向きでユーモアのセンスにあふれたフロランスにだんだん強く惹かれていく。お互い親しくなればなるほど、ジョスランは自分が身障者のふりをしていただけとは言い出せない。今まで遊びの恋はいっぱいしてきたが、本気になった彼女に、本当のことを言えないなんて。さて、彼はいったいどうするのか。
 監督、脚本のフランク・デュボスクが主人公のジョスランも演じている。フロランス役のアレクサンドラ・ラミーも美しくて素晴らしい。そして、ジョスランの父親役が懐かしいクロード・ブラッスール。いいおじいちゃんになっている。

パリ、嘘つきな恋/Tout le monde debout
2018 フランス/公開2019
監督:フランク・デュボスク
出演:フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー、キャロライン・アングラード、エルザ・ジルベルスタイン、ジェラール・ダルモン、クロード・ブラッスール