シネコラム

第236回 コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス

第236回 コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス

平成十一年十月(1999)
東中野 BOX東中野

 映画監督のピーター・ジャクスンがニュージーランドの生家近くの納屋で古いフィルムを発見した。修復してみると、これが映画史にわずか名前だけ残っていたコリン・マッケンジーなる監督の作品だとわかる。映画草創期に現れ、数々の先駆的発明を行いながらも、時代に恵まれず、不遇のうちに忘れ去られた天才、マッケンジーとはどんな人物だったのか。ピーター・ジャクソンのチームがその事跡を掘り起こす。
 農夫の息子だったマッケンジーは機械いじりが好きで、親戚の自転車屋で働くことになる。映画の巡業を見てその道を志し、最初に開発した映写機は自転車の車輪を応用したものだった。当時はまだサイレント時代だが、マッケンジーサウンドトラックが発明される以前に音の出る映画を作った。出演者が全員中国人であったため、観客に言葉が理解されず、彼のトーキーは失敗に終わる。
 カラー技術も世界に先駆け、タヒチで採集した植物を使用して色彩フィルムを開発するが、現地の女性の裸体が写っていたために、猥褻罪で投獄される。マッケンジーの色のついた画期的なフィルムは話題にすらならなかった。
 それでもめげずにニュージーランドオスカー・ワイルドの『サロメ』を超大作として企画し、撮影に取り掛かる。資金を得るために三流コメディを撮影するが、コメディアンの悪乗りで中断。やがて、アメリカの資本家が資金を出してくれる。順調に進むかに見えたが大不況で資本家が破産。コリン・マッケンジーは数々の失敗を繰り返し、最後は第二次世界大戦、失意のうちに戦場の露と消えたのだった。
 ピーター・ジャクスンは記録に基づいてニュージーランド奥地のジャングルを調査し、D・W・グリフィスに匹敵する『サロメ』のスペクタクルセットの跡を発見する。
 すごいドキュメンタリー。まるでウディ・アレンの『カメレオンマン』だ。ところどころに有名人のマッケンジーを偲ぶコメントまで入っているが、実はすべて作り話。真面目な人は怒らないでほしい。                

コリン・マッケンジー もうひとりのグリフィス/Forgotten Silver
1996 ニュージーランド/公開1999
監督:ピーター・ジャクソン
出演:サム・ニール