第210回 ロケットマンの憂鬱
令和元年七月(2019)
川口 スキップシティ多目的ホール
埼玉県川口市でおこなわれているスキップシティ国際Ⅾシネマ映画祭、デジタルによる映像作品を国内、海外から公募し、優秀作品を上映する映画祭で、二〇〇四年より開催。当初はまだフィルムが中心でデジタルによる作品は珍しかった。ところが、今では撮影も編集も上映も映画はほとんどデジタルとなっている。この映画祭、先見の明というべきか。近年では毎年、世界各国から多数の作品が寄せられているとのこと。
第十六回(二〇一九年)に上映されたハンガリー映画『ロケットマンの憂鬱』は一九五〇年代のソ連の宇宙開発が題材になった辛口のコメディである。
宇宙を征することは世界を征することと、米ソが躍起になっていた頃。農村に住むジプシーの青年ライコは、子供の頃に自分の過失から母をトイレの事故で亡くし、以後、空を飛ぶ夢を抱いていた。
ライコを温かく見守る指導員の下で気球飛行中、ハンガリーに駐在のソ連兵の一軍に出会い、撃ち落され、スパイ容疑で拷問の末、指導員の弁明もあり、ソ連での宇宙飛行士訓練生となる。
過酷な訓練の後、ジプシーのライコ、屈強なドイツ人女性、モンゴル人男性の三人が宇宙飛行の候補として選ばれるが、実は宇宙飛行はまだ実験段階であり、ブレジネフは生還の可能性の薄い実験飛行にジプシーやドイツ人やモンゴル人を選んでいたのだ。世界初の宇宙からの生還者はソ連人でなければならぬ。
以前にもこの実験で宇宙へ飛び出したまま戻らなかった者が何人かいたことを知らされたライコは、それでも宇宙飛行を志願する。
ガガーリンの有人飛行以前に宇宙へ飛び出した名もない英雄たちの記録は極秘であり、公表されていない。
ソ連のロケットで宇宙から最初に生還した犬の名前がライカであった。
ロケットマンの憂鬱/Lajko – Gypsy in Space/Lajkó – Cigány az ürben
2018 ハンガリー/2019 スキップシティ国際Ⅾシネマ映画祭
監督:バラージュ・レンジェル
出演:タマーシュ・ケレステシュ、ヨゼフ・ギャブロンカ、ティボール・パルフィ、アンナ・ベルガー