シネコラム

第211回 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

飯島一次の『映画に溺れて』

第211回 ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

令和元年九月(2019)
浦和 ユナイテッドシネマ浦和

 

 シャロン・テート事件が起こったのが一九六九年の八月。ロマン・ポランスキーの妻、妊娠中のシャロン・テートが自宅に侵入したカルト集団によって惨殺された。
 タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』はこの禍々しい事件を背景にしたフィクションである。
 一九六九年のハリウッド。かつてTV西部劇で華々しい主役を演じていたリック・ダルトンは、盛りを過ぎ今や落ち目。映画スターへの転向も難しく、地味なゲスト悪役に甘んじている。専属スタントマンを勤めていたクリフは今では付き人兼運転手。
 リックの隣に引っ越してきたのが、『ローズマリーの赤ちゃん』で名をあげたポランスキー監督とその妻シャロン。だが、リックは気おくれして挨拶さえしていない。
 ようやくスタントの仕事にありついたクリフは、現場でカンフーの奥義を吹聴する中国人俳優と行きがかりで格闘することになり、相手を叩きのめしてクビになる。
 やがて、リックに映画プロデューサーからイタリアでの西部劇主演のオファーがくるのだが。
 一九六九年のハリウッド映画界が見事に再現されていて、スティーブ・マックィーン大脱走FBIサム・ワナメイカーブルース・リーマカロニウエスタン、当時の映画やTVドラマ、俳優や監督が実名で出てきて、虚実ないまぜの面白さである。
 そして、郊外で集団生活を送る不気味なマンソン・ファミリー。
 残虐で凶悪なカルト集団に対するタランティーノの怒りが映画の最後に爆発する。映画愛に溢れながらも、観終わったあと、なぜか哀しい。
 シャロン・テート事件のすぐあとにロマン・ポランスキー監督は『マクベス』を撮ったが、それはシェイクスピアでありながら、恐ろしく血みどろの映画であった。

 

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド/Once Upon a Time in Hollywood
2019 アメリカ/公開2019
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:レオナルド・ディカプリオブラッド・ピットマーゴット・ロビーエミール・ハーシュ、マーガレット・クアリー、ティモシー・オリファント、オースティン・バトラー、ダコタ・ファニングブルース・ダーンアル・パチーノ