第182回 血を吸う薔薇
平成二年五月(1990)
大井 大井武蔵野館
山本迪夫監督の血を吸うシリーズを三本続けて観たのが大井武蔵野館だった。『血を吸う人形 幽霊屋敷の恐怖』『血を吸う眼 呪いの館』『血を吸う薔薇』である。
このうち『血を吸う眼』と『血を吸う薔薇』が岸田森主演の吸血鬼映画で、ドラキュラの日本版といってもいい。ふたつの作品にはつながりはないが、どちらも過去のドラキュラ映画のような黒づくめ、黒いマントで岸田森が女を襲って生き血をすするのだ。
特に『血を吸う薔薇』が古風な怪談で、私は好きである。
田舎町の女子大に若い教師が赴任してくる。その夜、彼は死んだはずの学長夫人を夢に見て襲われそうになる。町の医者が民話の収集家で、この地に伝わる食人鬼伝説を話して聞かせる。
春休みになり、寮に残った女子学生が何者かに襲われるが、この正体が学長であり、吸血鬼というわけだ。
鎖国時代、港に流れ着き村人たちから虐殺された白人宣教師が鬼となり、村人の生き血を吸い、若い肉体に取りついて生き続けている。この女子大の初代学長も、今の岸田森も吸血鬼の成れの果てで、次の新しい肉体に選ばれたのが黒沢年男の新任教師だった。
吸血鬼役の岸田森はもう、ほんとの吸血鬼かと思うほどの鬼気迫る熱演。品があって知的で、しかも病的なイメージ。特異な個性の持ち主だったが、四十代で亡くなったのは、なんとも惜しい。
当時、大井武蔵野館はこの手の変な映画を次々に上映しており、もう一本、ここで和製ドラキュラ映画を私は観ている。天知茂が主演の『女吸血鬼』で、島原の乱の時代、天草四郎の下で戦った切支丹武将が神を呪って吸血鬼となり、現代まで生き続けて人を襲うというもの。こちらの監督は中川信夫だった。
血を吸う薔薇
1974
監督:山本迪夫
出演:岸田森、黒沢年男、望月真理子、太田美緒、田中邦衛