シネコラム

第181回 ドラキュラ‘72

第181回 ドラキュラ‘72

昭和四十七年八月(1972)
大阪 難波 なんばロキシー

 以前、東中野のミニシアターで有名なベラ・ルゴシの『魔人ドラキュラ』を観たのだが、これが期待したほど面白くなかった。映画そのものはよくできている。ただ、私にとって、ドラキュラはやっぱりクリストファー・リーなのだ。
 私が子供の頃からTVでドラキュラ映画は放送されていて、棺桶からすっと立ち上がるクリストファー・リーのドラキュラ、かっこよかった。化け物でありながら、気品がある。なにしろ、トランシルバニアの貴族、伯爵なのである。
 私が最初に映画館で観たドラキュラは英国ハマープロのシリーズ中でも異色作の『ドラキュラ‘72』だった。
 最初の導入部、十九世紀末、ドラキュラとヴァン・ヘルシング教授の死闘。ドラキュラはついに倒され燃え尽きる。ドラキュラの従僕がその灰をそっと拾いあげ、空を見上げると、飛行機が飛んでいる。
 場面は百年後の一九七二年に移る。オカルトマニアのヒッピーたちが、廃屋で黒魔術に興じている。そこにかつてのドラキュラの従僕だった男が現れ、血の儀式に手を貸すふりをして、ご主人様を甦らせる。
 若い女性を襲う猟奇殺人が起こり、スコットランドヤードが捜査に乗り出す。
 百年ぶりに甦ったドラキュラと対決するのがヴァン・ヘルシング教授の孫で吸血鬼研究家の老教授、これがやはりピーター・カッシング。ドラキュラは老教授の孫娘を襲い吸血鬼にすることで復讐を果たそうとする。
 クリストファー・リーはドラキュラが当たり役だが、他にフランケンシュタインの怪物もミイラ男も演じている。さらにシャーロックの兄のマイクロフト・ホームズも。
 現代に甦るドラキュラはその後、ジェラルド・バトラー主演の『ドラキュリア』(原題ドラキュラ2000)が、ほぼ同様の内容。こちらのヴァン・ヘルシング教授はクリストファー・プラマーだった。

 

ドラキュラ‘72/Dracula A.D. 1972
1972 イギリス/公開1972
監督:アラン・ギブソン
出演:クリストファー・リーピーター・カッシング、ステファニー・ビーチャム