シネコラム

第183回 血を吸う人形 幽霊屋敷の恐怖

第183回 血を吸う人形 幽霊屋敷の恐怖

平成二年五月(1990)
大井 大井武蔵野館

 タイトルに「血を吸う」とあるが、吸血鬼は出てこない。
 行方不明になった兄の消息を求めて、妹が兄の婚約者の屋敷を訪ねる。婚約者は交通事故ですでに死亡しており、兄の行方は依然としてわからない。
 ところが、死んだはずの婚約者が実は生きていて、どうやら人を襲っている様子。その真相はいかに。
 実は事故で瀕死の状態のとき、医者が彼女に催眠術をかけ、死なずに生き続けると暗示を与えた。すると肉体が死んでも、本人は死んだと思わず、生きて動いて、人を殺し続けているのだ。
 わあ、なんて気持ち悪い。
 配役がとてもいい。兄が中村敦夫、妹が松尾嘉代、妹の恋人が中尾彬、そして死んでいながら人を殺す婚約者が小林夕岐子。
 一九六〇年代末、ミニスカートが大流行して若い女性はほとんどみんなミニスカートだった。だから、当然ながら映画の中の松尾嘉代のスカートも短い。つい、映画と関係ないそんなところに見惚れてしまう私であった。
 この映画を観たあと、星新一ショートショートの怖い一編を思い出した。
 ある精神科医に患者が「自分は生きている気がしない。どうも死んだように思う」と訴える。医者はそれが患者の妄想に過ぎないことを説明する。
 患者が納得して帰って行ったとき、医者はふと、自分が旅先の旅館で寝ていたことに気づく。
 ああ、今のは夢だったのか。そういえば、このあたり、自殺の名所だったな。
 そのとき、部屋の外で何か大きなものをひきずるような音が。

 

血を吸う人形 幽霊屋敷の恐怖
1970
監督:山本迪夫
出演:中村敦夫、小林夕岐子、松尾嘉代中尾彬南風洋子