森川雅美・詩

明治一五一年 第4回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年4

        森川雅美

見えない影を追っている
見えない影の意識を追っている
やがて視界を失う私たちの眼
だから懐かしい声が聞こえ
いつまでも消えない掌の温みが
ゆっくり体に満ちていき
失われた数知れぬ魂たちが静かに
訴えかけてくるのです
密かな佇みを注ぎいく密かな
悲しみが足裏の佇みに注ぐ
もうかすれかけた陽射のなかの
面影に記憶の欠片を届け
過ぎていく営みならば傷口
の癒えないやせた背骨を晒し
失われた数知れぬ魂たち
が静かに訴えかけてくるのです
途切れない歪みの深奥を紡ぎ
さらに深奥の歪みは終らず
いまだ鮮明な記憶に残る一瞬の
光景へ新しい掌をかざせ
枯れた祈りの言葉にしみいるため
のかすかな水脈を穿ち
失われた数知れぬ魂たちが静かに
訴えかけてくるのです
人の風向きがが変わる風向き
の果ての人の悲しみが並ぶ
緩やかな長い坂の途上に
立ち止まり実らぬ予感を置いて
語られる痕跡のための
ほの明かりから消えていく背中に
失われた数知れぬ魂たち
が静かに訴えかけてくるのです
ゆるい風が始まりの青空
を過ぎりいき誰かの輪郭を伝う
狭間の羽ばたきを紡ぎつつ
かすむ淀みの奥の笑みを尋ね
名残りならあらがういつまでも
消えない輝きつづけるひ
失われた数知れぬ魂たちが
静かに訴えかけてくるのです

 

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