シネコラム

第670回 ラストマイル

飯島一次の『映画に溺れて』

第670回 ラストマイル

令和六年九月(2024)
新宿歌舞伎町 TOHOシネマズ新宿

 

 ブラックフライデーはアメリカの感謝祭の翌日の金曜日に行われる大安売りで、ショッピングモールでの惨劇を描いた映画『サンクスギビング』が生々しい。
 感謝祭のない日本でもブラックフライデーのセールは定着し、それを狙った連続爆破事件が『ラストマイル』の発端となっている。アメリカに本社のある世界的な大手ショッピングサイトが多摩モノレールの走る武蔵野の西に巨大な倉庫を構える関東物流センター。ここから配送された商品の段ボール箱を客が開けたとたんに爆発し、悲劇となる。
 着任したばかりのセンター長、舟渡エレナがマネージャーの梨本とともに対処。正社員は十人に満たず派遣社員やアルバイトは数百人。巨大なセンター内を網羅するベルトコンベア、流れる無数の段ボール箱。それらは大手の宅配運送会社に送られ、さらに業務委託ドライバーによって各家庭に届けられる。犯行予告により、ブラックフライデーに合わせて商品に仕掛けられた爆弾は十二個と判明。物流センターの停止は企業の大損害となるので、警察を押し切るエレナ。事件の謎を追う刑事、犯人の正体と動機はいかに。
 現代はインターネットが普及し、店に行かなくてもネットの画面をチェックするだけで、日用品も電化製品も食品も書籍も玩具も衣類もなんでも購入できて、品物が家に届く。便利ではあるが、その便利さを効率よく流暢に正確に行うために多くの人が働いている。
 利益優先の企業で働く人々はまるで歯車であり、ベルトコンベアの速度が速まると、圧力で歯車が疲弊し壊れることもある。顧客を大切にするためには早く安く商品を届けるのが一番。それもまた会社の利益のためであり、企業は壊れた歯車の責任は取らない。資本主義の歪みをコミカルに描いた『モダンタイムス』の現代版といえよう。
 私はTVドラマは未見だが、この映画はTBSの不自然死究明研究所『アンナチュラル』と警視庁第4機動捜査隊『MIU404』と同じ脚本家の作品で、世界観を共有しており、ドラマの出演者たちが脇で頻繁に顔を出すが、映画の本筋とあまりかかわりない。

ラストマイル
2024
監督:塚原あゆ子
出演:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、火野正平、阿部サダヲ、石原さとみ、綾野剛、星野源、中村倫也、麻生久美子、井浦新、市川実日子、松重豊、薬師丸ひろ子、仁村紗和

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