森川雅美・詩

明治一五一年 第3回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第3回 

        森川雅美

 

ゆっくり下りていく

誰もいない静かな水辺だから

語られる諸諸の破片と

して見えなくなる足首より

ぶらさがる外れの漂う訪れの

まま留まり淀みいく

いく人もの人たちが小さく

響きあう隘路の外れへ

過ぎいくちぐはぐな言の葉

たちがほどく今際まで

野辺にざわめくだろう兆しに

なる先の叙景は滅ぶ

ために切断される明日

の安らぎの内の内に横切る

いく人もの人たちが流される

さらに深い岸辺まで

ゆくりなく洗う陽光

が消えた誰かの夢の中を浸し

移動する足裏が何度も踏み

つける老いた背が揺れ

先端は鋭く研ぎ澄み

賑やかな低い音律の停止なら

いく人もの人たちが

途切れない頭蓋の痛みを剥ぎ

白みいく長い道のりは

ぼやけながら遥かにつづく届き

えない行方のため足元から

の来し方を見つめ

ただ荒れた気流の方角

へと散らばる風向きなので

いく人もの人たちが

抗いながらもまだ流され漂う

形を失いかけ誰に知られる

ことなく片言を述べる

半身はにぶい痛みに襲われ

傷つく意識の底に及べ

より深まる淀みへと

捨てられた記憶の内側を晒し

いく人もの人たちが

まだ死んでゆるい傾斜を転げ

消えていくなら小さな足音

になりひずむ地の層が

現れない影として滲みしたたり

落ちる水滴を注ぎ

留まらない地面の起伏は遥か

彼方でわずかに萌す

いく人もの人たちがいつまでも

続く歩く足を緩め

実らない痕跡たちは

すべからく端端からほころべ

消えかけた深い意識

の声にまだ見ない何かが訪う

あることすらもでき

なかった朝の光に重ねて告ぐ

いく人もの人たちが折り重なり

層を成すなら呼べ

くべられる悲しみの亡骸が

離れていく影絵を追う

違う途上に現れるなら前の世

の夢は忘れて騒ぐぜ

 

「明治一五一年」第3回 を縦書きPDFで読む