第160回 エド・ウッド
平成七年十月(1995)
日比谷 シャンテシネ3
どんな世界にも頂点を極める一流の人物がいれば、そこそこに活躍する中堅がいて、さらに底辺で仕事をしているさほど有名でない人たちがいる。もちろん、彼らはみんなそれなりにプロなのだ。
時代は『サンセット大通り』の一九五〇年代、ジョニー・デップ扮するエドワード・ウッドはハリウッドの撮影所で雑用の仕事をしながら、いつか監督になりたいと夢見ている。ある日、偶然にかつての怪奇スター、ベラ・ルゴシと知り合い、彼の名前を利用して、映画会社に自分の企画を売り込む。今は落ち目で金に困った孤独な老人ルゴシは喜んで仕事を引き受け、その演技は堂々としたもの。だが、弱小会社の映画は都市部では上映さえされない。
楽天家のウッドは安っぽいセットにも、下手な三流俳優の演技にもまったく平気で、嬉々として次々に企画を立て、低予算の怪奇ものやSFものを短期スケジュールで作り続ける。製作費を工面するため、金持ちらしい女優志願の女性を見つけると、さっそく主役にしてしまい、長年主演女優だった恋人には去られる。ベラ・ルゴシが麻薬に溺れて入院すると、親身に世話を焼くが、その死をちゃっかりと次の映画に利用することも忘れない。
細部にこだわらないウッド。それをいいことに、まわりが好き勝手を始めると、とうとう頭にきて、撮影を投げ出し女装のままバーへ酒をひっかけに行く。彼には女装趣味があり、スタジオでは女装で演出していたのだ。そのバーで偶然にも大監督オーソン・ウェルズを見かけ、面識もないのに思いきって声をかけ、お互い映画作りの大変さについて語りあう。女装のウッドに鷹揚に応じるウェルズもすごい。
この映画はモノクロ。棺から起き上がった怪人物がものものしくエド・ウッドの伝説を語りだすオープニングは『死霊の盆踊り』へのオマージュであろう。
実在のエド・ウッドは七〇年代、アルコールに溺れて貧しく不遇のまま亡くなった。生前に作品が評価されることなく、最低の映画監督と称されている。
エド・ウッド/Ed Wood
1994 アメリカ/1995
監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップ、マーティン・ランドー、サラ・ジェシカ・パーカー、パトリシア・アークェット、ジェフリー・ジョーンズ、ビル・マーレイ