シネコラム

第161回 マクベス

第161回 マクベス

昭和四十八年十月(1973)
大阪 梅田 梅田地下劇場

 

 初めて観たシェイクスピア映画がポランスキーの『マクベス』であったのは、なんとも幸運だった。最初にオリビエの『ハムレット』を観ていたら、私はシェイクスピアを好きになったかどうか。
 ポランスキーの『マクベス』はアメリカのプレイボーイ誌が資金を出して作った映画で、古典劇というよりは、おどろおどろしい怪奇劇である。
 中世のスコットランド。グラミスの領主であり、勇敢な武将マクベスが、勝ち戦のあと盟友バンクォーとふたり、馬を疾駆させて帰還の途中、土砂降りの雨の中で不気味な三人の魔女に出会う。きれいはきたない、きたないはきれい。という有名な呪いの言葉ではじまる予言。グラミスの領主、コーダの領主、やがては王になるお方。
 ダンカン王のもとに戻ったマクベスは、戦の褒賞として、コーダの領地を与えられる。魔女の予言が本当ならば、自分はやがて王になる。心の中で燃え上がる野心にマクベス夫人が火をつけ、そそのかす。
 あとはもう、血で血を洗う残虐な殺戮シーン、裏切りと不安の日々。
 舞台の映画化というより、映画として面白かったのだ。舞台ではえんえんと続く役者の独白も、映画では呆然とするマクベスのアップに心の声としてナレーションでせりふが流れ、不自然さはまったくない。
 この映画の直後に劇団雲の格調高い福田恒存訳・演出で舞台の『マクベス』も堪能した。マクベス神山繁マクベス夫人は岸田今日子だった。
 その後、平幹二郎栗原小巻の蜷川版、串田和美吉田日出子自由劇場版、塩野谷正幸入江若葉の流山児版と機会があれば観に行き、もちろん映画では黒澤明の『蜘蛛巣城』も観て、『マクベス』は私の一番好きなシェイクスピア作品となったわけであるが、そのきっかけがロマン・ポランスキーであったのだ。

 

マクベス/Macbeth
1971 アメリカ/公開1973
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ジョン・フィンチ、フランセスカ・アニス、マーチン・ショー