シネコラム

第126回 水戸黄門漫遊記

第126回 水戸黄門漫遊記

平成十五年五月(2003)
池袋 新文芸坐

 

 子供の頃から時代劇が好きだったが、学生時代に講談社から出ている文庫本の講談全集に出会い、真田十勇士由井正雪大岡越前天一坊、水戸黄門、河内山、遠山の金さん、鼠小僧などの時代劇が講談と深くつながっていることを知る。史実を虚構でふくらませ、面白おかしく語るのが講談なのだ。
 特に大岡越前水戸黄門、遠山の金さんなどはしょっちゅうTVで放送されていて、馴染み深かった。
 御三家水戸の藩主であった中納言徳川光圀が隠居して諸国を回るというのは、明治に作られた講談で、実際には諸国を回ったりはしなかったが、小説、映画、TVと大活躍で、おそらく水戸黄門の名を知らない人はいないだろう。
 映画では月形龍之助、TVでは東野英治郎の当り役だが、私が好きな黄門は実は森繫久彌なのだ。
 森繁の『水戸黄門漫遊記』は型通りの勧善懲悪世直しの旅ではなく、まだ枯れていない森繁の光圀が、宝田明の助さん、高島忠夫の格さんを供に世情を楽しむ旅に出る。箱根の関所役人の前で身分を明かしたために、せっかく三島女郎と楽しもうという矢先に本陣に案内されてしまう。ここを抜け出し遊郭へと向かうが、今度は代官所から御老公を厚くもてなすようにとの達しがあり、老公と間違えられた江戸の海苔屋の隠居が厚遇され、本物の黄門一行にはろくな女が回ってこない。邪魔が入って浮気ができない社長シリーズと同様の展開。海苔屋の隠居が社長シリーズ常連の三木のり平、のり平だから海苔屋という洒落なのだ。
 大井川の水嵩が引くのを待つ間、賭場で身ぐるみ剥がれて、裸でうろうろしているところを謎の女に助けられるが、どうやらこの女は公儀の隠密らしい。最後は尾張藩でのお家騒動に出くわし、若君暗殺を謀る悪家老一味を退治する。下世話ながら風格もある森繁ならではの味わいある黄門漫遊記となった。

水戸黄門漫遊記
1969
監督:千葉泰樹
出演:森繁久彌宝田明高島忠夫中村勘九郎中村是好、十朱久雄、東郷晴子三木のり平萩本欽一坂上二郎池内淳子草笛光子

 

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