シネコラム

第106回 迷探偵シャーロック・ホームズ最後の冒険

第106回 迷探偵シャーロック・ホームズ最後の冒険

平成二年七月(1990)
銀座 シャンゼリゼ

 

 シャーロック・ホームズが活躍する物語は、その大半がワトスンの手記という体裁で発表されている。つまり、事件を記録しているのは、常にいっしょに行動している友人ジョン・H・ワトスン医師なのだ。
 もしそうなら、こういうことも考えられる。ホームズは最初から存在せず、これらの物語はワトスンが自分ひとりで創作したフィクションだった。
 それがイギリス映画『迷探偵シャーロック・ホームズ最後の冒険』である。
 ベン・キングズレーふんするワトスン、自分の書いたホームズ物語が評判になる。世間はこれを実話のノンフィクションだと信じて、ホームズの活躍に期待を寄せる。
 ワトスンは文才もあり推理能力もあるのだが、自分で事件を推理し解決して発表しようとすると、出版社では、ホームズの活躍以外では相手にしてくれない。
 そこでパフォーマンス用に小説中の探偵にイメージの合う人物を雇うのだ。これがアルコール依存症で仕事のない俳優。ふんするはマイケル・ケイン
 ワトスンはこの俳優にホームズ役を演じさせ、自分で組み立てた推理を代弁させようとする。そこにもうひとりの天才、モリアーティ教授が登場し、事件は思わぬ方向に。
 マイケル・ケインベン・キングズレー、大物スター二人がホームズとワトスンという英国製の珍品コメディである。
 公開されたのは銀座シャンゼリゼ(後に丸の内TOEI②)での特集上映での一本、短期間、レイトショーのみ。
 いずれにしろ映画館で観られて幸運だった。

 

迷探偵シャーロック・ホームズ最後の冒険/Without a Clue
1988 イギリス/公開1990
監督:トム・エバーハート
出演:マイケル・ケインベン・キングズレー、ジェフリー・ジョーンズ