シネコラム

第97回 アニー・ホール

第97回 アニー・ホール

昭和五十六年五月(1981)
池袋 文芸坐

 

 僕を簡単に入会させてくれるようなクラブの会員にはなりたくない。すんなり受け入れてくれる女より、振られた女に強い未練が残る。
 ウディ・アレンの分身のようなインテリ芸人アルビー・シンガーが自分を捨てた恋人アニーとの思い出をうじうじと語る失恋話と、ポケットジョーク的ギャグの組み合わせが幸福にも絶妙な味わいを引き出したのがこの映画。
 コメディといえば、スラップスティックのドタバタか、ハッピーエンドのラブコメディか、だいたい、そのどちらかだったが、ウディ・アレンの笑いは、考えオチの哲学ジョークとバナナの皮ですべって転ぶ類の単純ジョークがミスマッチに散りばめられていて、最初の頃は、七面倒臭いオチが苦手な人にも、単純ジョークを馬鹿にする人にも、両方から敬遠されていたような気がする。
 でも、コメディはなんでもありなのだ。行きずりの通行人がいきなり会話に加わったり、過去に戻って少年時代の自分と会話したり、主人公がカメラを通して観客に愚痴をこぼしたり。
アニー・ホール』でそれがうまく大衆化して成功し、その後、ウディ・アレンは名監督となる。私生活ではもてたんだろうが、この映画の頃のウディ、見るからに冴えない振られ男がとても似合っていた。
 アニーのダイアン・キートンがまた、びっくりするぐらいいい女。モデル体型の長身と整った顔立ち、知性とユーモアと愛嬌があって、こんな女性に笑いかけられたら、男はころりと参ってしまう。
 でも、結局、アニーはひとりの男では満足せず、次から次と男を変えて、それもどんどんつまらない男になっていく。後年、アルビー・シンガーが男連れの彼女を見て、勝ったと思うわけだ。

 

アニー・ホール/Annie Hall
1977 アメリカ/公開1978
監督:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレンダイアン・キートン、トニー・ロバーツ