シネコラム

第94回 今夜、ロマンス劇場で

第94回 今夜、ロマンス劇場で

平成三十年一月(2018)
西新橋 ワーナーブラザース試写室

 

 男の子は、たいてい映画の中の美女を好きになる。それは憧れの女優自身であるとともに、劇中の役柄としてのヒロインでもある。ヒロインがつらい目にあえば、胸しめつけられるし、ヒロインが幸せになれば、ほっと胸を撫で下ろす。
 だが決して、彼女と見つめ合ったり、言葉を交わしたり、手を触れたりすることはできない。それはスクリーンに映し出された虚像にすぎないからだ。
 時代は一九六〇年代、映画会社の撮影所で助監督をしている青年。普及し始めたTVに押されて、映画は斜陽産業となりつつある。
 彼は近所の小さな映画館に夜毎通っている。親しい館主に頼んで、終業後、たったひとりで映画を観るのだ。戦前のお気に入りのフィルムを自分で映写機にセットし、うっとりとスクリーンを見つめる。毎日、同じ映画。タイトルは『お転婆姫と三獣士』、お城を抜け出したお姫様が三匹の動物をお供に冒険に出る、といった『オズの魔法使い』と『ローマの休日』を合わせたような内容。
 主演女優はもうこの世にはいない。彼はスクリーンの中のお姫様に胸ときめかせ、毎晩見とれている。そして、ある雨の夜、映画館に雷が落ちて、いきなり、その衝撃で画面の中のお姫様が客席に飛び出してくるのだ。モノクロのまま。彼は自分のアパートにお姫様を連れ帰り、化粧で色をつけて。
 映画の外の世界を経験して、感動するお姫様。そして、彼はお姫様に恋をする。
 一方、現代の病院。寝たきりの老人が入院している。彼は昔、撮影所で働きながら、監督を目指し、脚本を書いていた。映画化されなかったその脚本の内容を若い看護師に物語る。それがスクリーンから抜け出たお姫様のファンタジーなのだ。
 彼の恋は果たして実ったのだろうか。
 老人役の加藤剛。この作品が遺作となった。

 

今夜、ロマンス劇場で
2018
監督:武内英樹
出演:綾瀬はるか、坂口健太郎、本田翼、北村一輝中尾明慶加藤剛