シネコラム

第93回 ラスト・アクション・ヒーロー

第93回 ラスト・アクション・ヒーロー

平成五年九月(1993)
歌舞伎町 ミラノ座

 

 ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』は映画の主人公がこちらの世界へ出てくる話だったが、そのアクション版と思えるのが『ラスト・アクション・ヒーロー』である。
 映画ファンの少年ダニーが仲のいい映写技師の老人から、魔術師フーディニの魔法のチケットをもらい、それを使ってアーノルド・シュワルツェネッガーが主演する刑事アクション『ジャック・スレイター』の新作試写をひとりで観ていると、不思議なことに、チケットの魔力で映画の中に入ってしまう。
 ダニーはこのシリーズのファンで、だれが悪役で主人公ジャック・スレイターがどうなるか知っている。ダニーはつい、それをしゃべってしまい、映画の中の人物たちは驚くわけだ。
 チャールズ・ダンス扮する殺し屋ベネディクトが、突如現れたダニーの秘密に気づき、魔法のチケットを奪って、スクリーンから現実の世界へと抜けだす。
 映画の中のジャック・スレイターも殺し屋を追って、ダニーとともに現実の世界へ。
 ベネディクトは現実のニューヨークに狂喜する。そこでは犯罪が日常茶飯事で、勧善懲悪などありえない。いきなり拳銃を出して、通行人を射殺するベネディクト。周囲の人は一瞬驚いてもあとは知らん顔。そう、これこそ現実。悪人は人を殺してもつかまらず、平気でのさばっている。なんてすばらしい世界。悪人にとってニューヨークは天国なのだ。
 魔法のチケットで映画の中から悪役たちを次々と引っ張り出して、宿敵であるジャック・スレイターを演じる現実の俳優、新作披露会場に舞台挨拶のため現れたシュワルツェネッガー本人を殺そうとする。それをジャック・スレイターが阻止するのだ。
 プレミアの場面にシュワルツェネッガーが本人の役で登場、ジャンクロード・ヴァンダムもちらっと見える。
 映画の架空世界と現実のギャップがギャグとして描かれて、最後は『第七の封印』から抜け出てきた死神まで登場する。

 

ラスト・アクション・ヒーロー/Last Action Hero
1993 アメリカ/公開1993
監督:ジョン・マクティアナン
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、オースティン・オブライエン、チャールズ・ダンス、トム・ヌーナン、F・マーリー・エイブラハム