シネコラム

第91回 ボギー俺も男だ

第91回  ボギー俺も男だ

 昭和四十八年十月(1973)
大阪 梅田 北野シネマ

 

 この映画に出会えたことが、ひょっとして、今の私につながっているのかな。十九のとき、私は大学受験に失敗した浪人生で、鬱々とした日々の中、映画館に逃げ込むことが多かった。その日、入った二本立ての映画館。
 いきなり、モノクロの『カサブランカ』の最後のシーンから始まる。ハンフリー・ボガートイングリット・バーグマンが向き合い、飛行機のプロペラが回って、振り返る場面。いったいなんだろう、この映画は。
 すると、それをポカンと口を開けうっとりと観ている男。それがウディ・アレン。『カサブランカ』は映画の中の映画館で上映されていたのだ。
 映画マニアの冴えない主人公、男っぽさとは程遠い。別れた妻に未練たらたら。心配した親友夫妻がデートをお膳立てしてくれても、気取って難しい映画の話を得意げにするので、相手の女性は嫌な顔。そんな彼が次々と女性に振られ続ける物語である。もてない主人公の前に出現し、いろいろと女にもてるコツを助言するのがトレンチコートにソフト帽のボギーの幻影で、この俳優が本物のボガートに似ていて、いい雰囲気を出している。
 振られ続けた主人公が最後に親友の妻といい仲になり、やがて、『カサブランカ』のラストシーンとそっくりの終末を迎える。親友の妻を演じるのは当時ウディといい仲だったゴージャスな美女、ダイアン・キートン
 そして私は、冒頭のウディ・アレンのようにこの映画をぽかんと口を開けて観終わった。続けて二本立てのもう一本『暗殺の森』を観たあと、もう一度、『ボギー俺も男だ』を繰り返し観た。昔の映画館は入れ替え制じゃなかった。
 映画マニアという生き方も悪くない。私のウディ・アレン初体験である。『暗殺の森』は名作の誉れ高いが、ボギーとボギーに挟まれて、ほとんど印象がないのだ。

 

ボギー俺も男だ/Play It Again, Sam
1972 アメリカ/公開1973
監督:ハーバート・ロス 原作:ウディ・アレン
出演:ウディ・アレンダイアン・キートン、トニー・ロバーツ