シネコラム

第27回 男はつらいよ 寅次郎春の夢

第27回 男はつらいよ 寅次郎春の夢

平成八年九月(1996)
築地 松竹セントラル2

 

男はつらいよ』はシリーズ化され、毎年興行されて人気は続き、舞台となった葛飾区の柴又、帝釈天の参道には全国から観光客が押し寄せた。シリーズ終了後も、柴又駅前には車寅次郎の銅像が立ち、寅さんの町興しは続いている。
 映画は毎回、寅次郎が美女に片思いをして振られるパターンで、相手役の女優はマドンナと呼ばれ、第一回の光本幸子から始まり、佐藤オリエ新珠三千代栗原小巻長山藍子若尾文子榊原るみ吉永小百合八千草薫浅丘ルリ子岸惠子とまあ、錚々たる女優陣が名を連ねるのだ。ゲストの男優も森繫久彌、志村喬三船敏郎など映画界の大物が出ることもあり、毎回話題になったものだ。
 その中で異色なのがアメリカの喜劇俳優ハーブ・エデルマンがゲストで出た『寅次郎春の夢』である。マドンナは香川京子
 柴又に寅次郎が帰って来ると、アメリカ人セールスマンのエデルマンが下宿している。寅は怒るが英会話教室の先生の母親が登場し、未亡人と知ってぼおっとなり、いつものパターン。エデルマンとも仲良くなる。エデルマンがさくら夫婦の会話の少なさを愛情の少なさと受け取り、ほのかな恋を抱くところが、寅さんのパターンと似ていて笑える。エデルマンは旅先の京都で入った旅回りの芝居小屋で蝶々夫人を上演しているのを見て、自分とさくらを重ねて涙を流す。
 柴又の庶民がそろいもそろって英語をまったく知らなすぎるのはちょっと不自然。コメディだから、まあいいか。
 私は初期の作品はみんな好きだが、実は封切で観たことはなく、たいていは名画座の寅さん特集三本立てなどで観ている。『寅次郎春の夢』はずっと観たかったのだが、なかなか観られず、渥美清が亡くなったとき、築地の松竹セントラルで追悼特集『男はつらいよ』シリーズ全作の特集上映が行われたので、ようやく観られた。

 

男はつらいよ 寅次郎春の夢
1979
監督:山田洋次
出演:渥美清倍賞千恵子香川京子、ハーブ・エデルマン、林寛子