シネコラム

第26回 男はつらいよ

第26回 男はつらいよ

昭和五十年二月(1975)
大阪 北浜 三越劇場

 

 渥美清といえば、車寅次郎ことフーテンの寅。
 最初、TVドラマとして放送され、翌年の一九六九年に劇場用の映画となり、次々と続編が作られて、その数は四十八作に及ぶが、私が特に好きなのは、初期の寅次郎の無法ぶりが目立つ作品である。やはり第一作は面白い。
 葛飾柴又の団子屋にふらりと現れた不審な男。風体からして堅気じゃなさそう。これが十五歳で父親と喧嘩して家出したきり音信不通だった寅次郎。その後、両親も死んでたったひとりの妹さくらが、団子屋の叔父夫婦と暮らしている。二十年ぶりのぎこちない兄と妹の再会となる。
 寅次郎は妹の見合いに同席し、傍若無人の無作法を発揮、縁談をぶちこわして、叔父夫婦に意見され、ぷいっと怒って飛び出す。無学で短気で乱暴者である。
 テキ屋稼業なので全国各地を回っているが、奈良の露店で商売しているとき、柴又帝釈天の御前様とその娘に偶然出会う。御前様が笠智衆で、父と娘が奈良に旅行するのは小津安二郎の『晩春』へのオマージュであろう。娘の冬子は寅次郎の幼馴染、それが美人になっているのでぽおっとなって、いっしょに柴又まで戻ってくる。
 ここで隣の印刷屋の住み込み青年の博が妹さくらに思いを寄せていることを知り、とりもとうとしてぶちこわした格好になるが、それが縁でふたりは結ばれる。が、寅次郎の冬子への恋心ははかなくも実らぬまま、彼は寂しく旅に出る。
 これが大ヒットし、同じ一九六九年に『続・男はつらいよ』、翌一九七〇年には森崎東監督の『フーテンの寅』、小林俊一監督の『新・男はつらいよ』、山田監督の『奮闘篇』と三本も作られ、以後、シリーズとして定着し、毎回地方都市が描かれ、寅次郎は美人に恋して振られるというパターンが一九九五年まで続く。

 

男はつらいよ
1969
監督:山田洋次
出演:渥美清倍賞千恵子光本幸子森川信三崎千恵子笠智衆前田吟