シネコラム

第25回 ヤコペッティの残酷大陸

第25回 ヤコペッティの残酷大陸

昭和四十七年四月(1972)
大阪 梅田 阪急プラザ劇場

 

 白人の幼い少女が散歩している。手に紐を握って。紐の先につながれているのは、首輪をした幼い黒人の少年。少女は犬の散歩のごとく、黒人少年を散歩させていたというショッキングな場面。
世界残酷物語』で一世を風靡したグァルティエロ・ヤコペッティ監督が、アメリカ南部の奴隷の歴史をほぼドキュメンタリー形式の再現フィルムで見せたのが『ヤコペッティの残酷大陸』である。
 白人のハンターによってアフリカで拉致された黒人たちが、船に積み込まれ、アメリカの奴隷市場で商品として、家畜として売買される様子。そして大農場での奴隷の暮らし。
 増殖のための種つけという名目で行われる黒人女性への強姦。
 教会は奴隷制を肯定する。神はわれわれ白人をそのお姿に似せて作られたと。
 動物学者は黒人を白人より劣等な類人猿に近い種であると公言する。黒人は従順だが、原住民の野蛮なインディアンは反抗的で奴隷には向かないので撲滅するしかないと。
 そんな中でただひとり、奴隷制に疑問を持つ白人女性がいた。彼女の著書『アンクル・トムの小屋』はベストセラーとなる。ストウ夫人である。
 そして一九七〇年代、黒人の怒りがブラックパワーとして爆発するところでこの映画は終わる。
 後味はよくない。私はまだ十代だったが、内容のすさまじさに圧倒された。五十年近くも以前のことなのに、今でも忘れられない映画である。

 

ヤコペッティの残酷大陸/Uncle Tom
1971 イタリア/公開1972
監督:グァルティエロ・ヤコペッティ