第19回 クレージーだよ奇想天外
平成二年十二月(1990)
桜木町 ヨコハマニュース劇場
中学時代に見損ねて、ずっと憧れていた作品。「ぴあ」を片手に横浜まで出かけて、ようやく観られたのが三十代の頃。クレージー映画では、私はこれが一番好きだ。
SFコメディで、ナンセンスで、サクセスストーリーでもあり、政財界風刺漫画でもある。しかも植木ではなく谷啓主演。飄々とした味わいは宇宙人役にぴったり。
宇宙の片隅にある遊星αで谷啓のミステイクセブンが釣りを楽しんでいる。わざとらしいちゃちなセットや衣裳が笑える。そこへ地球の人工衛星が飛んできて地面が揺れる。宇宙の平和を乱す地球人への使者として、ミステイクセブンが選ばれ、日本に送られることになる。遊星αでは人間は機械から生まれ、彼はたまたま機械の故障で出来が悪かった。地球には女という人間を生む動物がいるので、誘惑されないようにと忠告される。
そこでタイトルが出て、主題歌『虹を渡って来た男』が流れる。この歌も好き。
一九六六年の東京、大企業の新入社員鈴木太郎という男の肉体に乗り移ったミステイクセブンは以後、鈴木太郎としてサラリーマンを経験する。このあたりは東宝お家芸。会社をクビになって歌手として売り出したり、国会議員になり、大企業が核爆弾を作るための法案に与党でありながら反対したりする。が、失敗ばかりを繰り返し、結局遊星αに呼び戻される。彼が地球でしたことといえば、自衛隊の弾薬を花火に変えたことと、好きになった女性の弟である小学生の命を助けたことぐらい。
植木等の長官によって分解処分にされようとしたとき、上司の藤田まことが現れ、鈴木が反対したことで与党の法案が成立せず地球の平和が保たれたと報告する。そこで分解を許されたミステイクセブンは褒美として、地球人になることを望む。後日、遊園地で楽しそうに過ごす鈴木夫妻とその弟を遠くから寂しそうに眺めている綿飴売りの男こそミステイクゼブンであった。