シネコラム

第18回 花のお江戸の無責任

第18回 花のお江戸の無責任

昭和三十九年十二月(1964)
大阪 梅田

 

 私が小学生の頃、一番の人気はクレージーキャッツだった。七人組のコミックバンドで、リーダーが強面のハナ肇、花形スターが植木等、エキセントリックな味の谷啓。この三人に加えて、犬塚弘桜井センリ安田伸石橋エータロー。今でも全員の顔が思い浮かぶ。
 六十年代、クレージーはTVでも出ずっぱりで、私は「大人の漫画」という短いコント番組を特に毎晩楽しみにしていた。毎回紹介されるコント作家の名前が青島幸男。だから私は小学生の頃から後の東京都知事を知っていた。
 東宝の映画が好きだった父に連れられて、映画館でも何度かクレージーキャッツを観ている。その中で一番印象深いのが『花のお江戸の無責任』だ。
 クレージーなのに時代劇なのだ。歌舞伎のパロディで、助六に幡随院長兵衛を混ぜ合わせ、これに番町皿屋敷が加わる。
 植木等助六ハナ肇が幡随院長兵衛、谷啓が白井権八。クレージー以外では揚巻が団令子、髭の意久が進藤英太郎、青山播磨が有島一郎。よく憶えている。
 いい加減なへらへら男がすいすい世渡りして出世する『日本無責任時代』や『日本一のホラ吹き男』など植木等のサラリーマン喜劇を江戸の世界に置き換えたものだが、助六もまた、調子よく親の敵の意久を討ち取り、めでたしめでたし。
 当時は有名な古典の名場面をTVのコメディやバラエティでお笑いに仕立てることが多かったから、本式の芝居を観ていなくても「おわけえの、お待ちなせえ」ぐらいは子供でもみんな知っていたのだ。
 思えば今は、パロディの作りにくい時代かもしれない。

 

花のお江戸の無責任
1964
監督:山本嘉次郎
出演:植木等谷啓ハナ肇、団令子、池内淳子進藤英太郎