シネコラム

第9回 荒野の渡世人

飯島一次の『映画に溺れて』

第9回 荒野の渡世人

平成十八年五月(2006)
浅草 浅草名画座

 

 三船敏郎の武士が活躍する西部劇『レッドサン』は公開当時、大変な話題になった。共演がチャールズ・ブロンソンアラン・ドロン。監督がテレンス・ヤング
 幕府の使節が列車でアメリカの荒野を行く。これを列車強盗が襲い、献上の名刀が奪われる。主人の命で使節団の侍、三船敏郎が刀を取り戻すために強盗団を追うというもので、設定は面白いのだが、期待があまりに大きすぎて、ちょっと残念。
 実は『レッドサン』以前に日本人が主人公の西部劇がある。六十年代末、東映任侠映画で大スターだった高倉健が主演。その名も『荒野の渡世人

 中学生のとき、この映画の予告編だけ観て、ずっと観たいと思い続けていたのを、ようやく浅草の三本立て映画館で観られたときはうれしかった。
 当時はイタリア製作のマカロニウエスタン全盛の時代で、うどんウエスタンが登場してもおかしくないが、それにしても、高倉健の西部劇とは。
 私が観る前に予想したのは、明治初頭の日本の侠客がアメリカに渡ってガンマンとなり、ドスと拳銃でならず者たちと対決するといったストーリー。

 ところが、荒野を暴走する駅馬車の場面から始まるごく普通の典型的な西部劇で、両親を殺された若者の成長と復讐と決闘の物語だった。

 設定は幕末に咸臨丸で渡米した使節の武士が病気でアメリカに残り、白人女性と結婚して西部で開拓者となっているというもの。だから高倉健の役は日本のヤクザではなく、志村喬の武士とアメリカ人女性との混血で、アメリカ育ちのハーフ。
 この高倉健扮するケンが両親を通りすがりの駅馬車強盗一味に殺され、ひとり生き残って連中を探し出し、復讐をとげるという内容。武士の魂は流れているが、外見は完全な西部のガンマンという設定なのだ。考えれば不思議な映画で、この珍しい作品を上映してくれた今はなき浅草の映画館に感謝する次第。

 

荒野の渡世人
1968
監督:佐藤純弥
出演:高倉健志村喬、ケネス・グッドレッド

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