シネコラム

第5回 不知火検校

飯島一次の『映画に溺れて』

第5回 不知火検校

平成十一年三月(1999)
調布 文化会館たづくり

 

 盲目の居合の達人座頭市勝新太郎の当たり役だが、その前にも盲人の役を演じている。江戸時代の藪原検校を題材にしたピカレスク『不知火検校』である。
 江戸時代、盲人は幕府の庇護を受け、琴や鍼、灸、按摩などを職業として、高利の金貸しも公認され、検校、別当、勾当、座頭の位階が設けられて、一番上の検校には大名並の格式があった。
 主人公の杉の市は盲人ながら生まれついての極悪人。幼い頃から悪知恵が働き、長じては鈴ヶ森で旅人を殺して金を奪ったり、次々と女を手込めにしたり、盗賊たちをも顎で使い、悪の限りを尽くし、とうとう師匠の検校を悪仲間に殺させて、自分は二代目不知火検校となる。将軍家姫君の療治を依頼されるほどの頂点に上りつめるが、最後は天罰が下る。
 この悪党を、勝新太郎は実に活き活きと演じている。凶悪でありながらも、どことなくへらへらして愛嬌もある。後の『座頭市』『悪名』『兵隊やくざ』など、アウトロー役の出発点がこれなのだ。
 無頼で型破りな人物を多く演じていて、私生活でも役柄同様の奔放な面が広まっているが、やはり天性の俳優だった。『不知火検校』の盲人の所作、悪人のふてぶてしさ、そのリアリティは尋常ではない。恐ろしいまでの役作りである。
 清楚で純情な旗本の奥方を言葉たくみに無理やり犯すあたりの狡猾さ。その奥方を演じた中村玉緒こそ、後の勝新太郎夫人である。
『不知火検校』の戯曲は宇野信夫によるものだが、もとの藪原検校は歌舞伎、落語、講談の題材になった悪人で、後に井上ひさしも『藪原検校』を舞台で上演している。

 

不知火検校
1960
監督:森一生
出演:勝新太郎中村玉緒、近藤美恵子、鶴見丈二、丹羽又三郎

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