明治一五一年 第8回
無数の記憶が意識の内側を流れていく
その静かな水辺であるなら
とは今も生きている記憶ですから
問われるために剥がれいく訪れ
としての意味にならぬ声の気配が
明治元年のひたすら北上する
消える前の揺らぎとともに
紡がれいく度もぶつかりながら弾ける
とは柔らかい心音に似ているのね
山際の残照になる思い出は知らない
かたちになる間際の凪を結び
歩きつづける一世紀と五一年だから
彼方にまで広がる不明になるまで
のささやきだとすり減っていく
とは始まりの沈黙のままに沈でいる
無数の怨念が弱まる人の背中
を染めていく生きえない足どりなら
いまも南の海底に漂いつづける
首からの影はないままに放たれる
心音に似た内の爛れはゆるんだ
とは帰らない右脚に似るよ
丘陵までバラバラに散らばる手足に
歪み戻っていく水脈を届ける
いく度も循環する汚染は
見えないままに傷ついていく皮膚
の裏側のざらつきを結ぶために
とは記憶の奥底の安らぎなのだと
爆ぜる見失った魂のあり処を辿りつつ
心音のほとりで悲鳴を砕く
明治元年の帰らない足どりの
静まり返る均衡する土地の微かな
記憶を届けるためのなめらかな
とはたぶん追われているから
ひと時の切断は留まり不明になるまでの
高低の差を湛える澄んだ
歩きつづける一世紀と五一年だから
ふくらはぎに戸惑いながらも
ほとばしり見えなくなる汚辱を包む
とはまだ見えない広がりならば
忘却へと広がる掌をゆっくり重ね
ながらかすれいく人たちの背に
いまも生きているかはわからない
映る切り口に波立つ在所
を見るままに落ちた意識の裏側にも萌す