森川雅美・詩

明治一五一年 第9回

森川雅美『明治一五一年』

ちいさな点が明滅しながら
いくつも落ちていく
それは内側に灯る
消えかけたささやきなのだと
無数の明滅が一面に
広がっていき音もない平原
人の歩いた道なのです
かたちもはや思いだせずに
来た方角を見詰め
漂うのは壊れかけた船だと
明治元年の声が呟き
片側だけの重みに傾き
ながらもいまだ鮮やかな
埋まりえない時間があります
すでに忘れられた言の葉の
欠片が剥がれていく
見えない目の内側にも
灯りいく記憶はあるのか
と昭和のはじめの声が呟き
折れいく道の途上を
ささやく多くの声なのです
いくつもの朽ちかけた
魂たちがあわく光り集い
その首筋からの裂け目は
落ちていくゆるい裸眼
へと幾つもの影の形は消える
刹那せめておどけ
多くが佇みつづけています
散り散りになりはるかな
彼方にまで流れていく
誰かの見たまぶしい
小道は意識の内側まで縺れ
繰り返されても同じ
場所にはもはや戻らないさ
知る人はいないのです
呟くのは平成の終わりの
声から生まれ出る眉間
にざらつく感触と共に降り
積もる人たちの足の
先端まで届くいくつかの
残照を歪む果てに放ち

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