第579回 ヒルコ 妖怪ハンター
平成六年一月(1994)
早稲田 ACTミニシアター
子供の頃から漫画にさほど興味のなかった私が大学生になって、のめりこんだのが西岸良平と諸星大二郎だった。西岸良平は主に『三丁目の夕日』だが、諸星は『暗黒神話』『夢みる機械』『孔子暗黒伝』『妖怪ハンター』『マッドメン』『西遊妖猿伝』『諸怪志異』など、シリーズものや短編集を卒業後も次々と買い込んで読みふけった。
諸星漫画で映画化されたのを映画館で観たのは、アニメーションの『暗黒神話』と塚本晋也監督の『ヒルコ 妖怪ハンター』の二本だけである。
諸星の『妖怪ハンター』は考古学者であり古代文明の研究家である稗田礼二郎が闇の世界から抜け出ようとする妖怪たちを退治するシリーズである。稗田礼二郎の名は『古事記』の稗田阿礼と漫画原作者の大二郎から付けられているのだろうか。
映画は考古学好きの田舎の中学教師八部が、学校の地下にある古墳を発見し、扉の封印を剥がしてしまうところから、怪奇現象が始まる。
稗田礼二郎はかつての学友八部から手紙を貰い寒村にやって来る。八部は教え子の令子とともに行方不明となっている。稗田はかつて八部の妹と結婚していたのだが、古墳発掘で妻は事故死していた。稗田は八部の息子とともに中学校の古墳を探り当てる。この古墳こそ、黄泉の国との境の扉であり、太古に封印されたものだった。
暗黒の扉を八部が破ったため、ヒルコと呼ばれるあの世の生き物がこの世に出現して、連続殺人事件を起こしていたのだ。八部と令子はともにヒルコと化していた。この闇の神話はラブクラフトをも連想させる。
原作漫画の稗田礼二郎はニヒルだが、沢田研二はこれを三枚目風に演じている。八部が竹中直人、息子のまさおが工藤正貴、教え子の令子が上野めぐみ、中学校の用務員が室田日出男、他に光石研、趙方豪、余貴美子、大谷亮介が脇を固める。『鉄男』の塚本監督による見ごたえのあるホラーである。
ヒルコ 妖怪ハンター
1991
監督:塚本晋也
出演:沢田研二、工藤正貴、上野めぐみ、竹中直人、室田日出男、朝本千可、光石研、趙方豪、余貴美子、大谷亮介