シネコラム

第578回 火の鳥

飯島一次の『映画に溺れて』

第578回 火の鳥

平成十五年九月(2003)
京橋 フィルムセンター

 

 私は子供時代、漫画をさほど好まなかったが、中学生のとき、たまたま手塚治虫の『火の鳥』が掲載されている虫プロの月刊誌『COM』に出会い、最初から購読しており、『火の鳥黎明篇』は発表された順に読んでいる。
 原作は過去から未来、また過去、未来と繰り返し、振幅の幅がだんだん狭まって現代に至るというような壮大なイメージだった。ヤマタイ国の黎明篇、人類滅亡の未来篇、ヤマトタケルのヤマト篇、宇宙時代の宇宙篇、奈良時代の鳳凰篇、その後、大化の改新や源平合戦などの古代史やクローン人間が出てくる未来ものが、雑誌『COM』の廃刊後も続いていた。
 映画『火の鳥』はほぼ原作の黎明篇通りである。ヤマタイ国の卑弥呼の軍勢に滅ぼされたクマソの少年ナギが敵将猿田彦に拾われる。
 マツロ国の弓の名手弓彦は卑弥呼の要請で、その血を飲めば不老不死になるといわれる火の鳥を射るため、鉄の矢を携えて獲物を待ち続ける。病気で弱った卑弥呼は疑心暗鬼から弟スサノオの目を潰して追放する。
 弓彦は射止めた火の鳥を持ち帰ったが、卑弥呼はその血を飲まずに死ぬ。そこへ大陸から馬に乗った軍団が押し寄せ、ヤマタイ国を攻める。
 和睦を申し入れようとしたスサノオは騎馬軍に惨殺され、猿田彦はヤマタイ軍の指揮を取るが、不利な条件が重なり滅ぼされる。
 古代史と日本神話を融合したアイディアが手塚漫画の面白さとなっている。
 猿田彦に若山富三郎、ナギに尾美としのり、卑弥呼に高峰三枝子、弓彦に草刈正雄、スサノオに江守徹、騎馬軍のニニギに仲代達矢、アメノウズメに由美かおるという豪華キャストの日本神話。ただしCGや特撮技術の不完全な時代だったので、火の鳥飛翔など部分的にアニメーションを使っているのは中途半端で惜しいと思われる。

火の鳥
1978
監督:市川崑
出演:若山富三郎、尾美としのり、高峰三枝子、草刈正雄、仲代達矢、由美かおる、江守徹、草笛光子、大原麗子、林隆三、加藤武、田中健、伴淳三郎、大滝秀治、風吹ジュン、沖雅也、潮哲也、小林昭二、木原光知子、ピーター、カルーセル麻紀

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