シネコラム

第629回 ヘイトフル・エイト

飯島一次の『映画に溺れて』

第629回 ヘイトフル・エイト

平成二十八年二月(2016)
銀座 丸の内ピカデリー

 

 クエンティン・タランティーノ監督が七〇ミリの大画面にこだわった西部劇。タイトルのヘイトフル・エイト、とてもいやな八人、マグニフィセント・セブンの素晴らしい七人を連想するが、『荒野の七人』とはなんの関連もない。
 南北戦争後の荒野の雪原。駅馬車の前にたちはだかるのは北軍の軍服姿の黒人、ウォーレン少佐と名乗る賞金稼ぎ。殺したならず者の死体を町まで運ぶので同乗したいと申し出る。馬車の先客はやはり賞金稼ぎのジョン・ルース。一万ドルの賞金首の女強盗デイジーを町まで連行し、縛り首にするために乗っている。そこへ馬が雪道で倒れたと新任保安官を名乗るクリスが通りかかる。
 御者は仕方なく、この四人を乗せて、吹雪を避けるためミニーの洋装店に避難する。女主人ミニーは外出中でメキシコ人のボブが留守をまかされている。先客が元南軍のスミザース将軍、荒くれカウボーイのジョー、絞首刑執行役人の英国人モブレー。
 御者O・B以外のこの八人、みなヘイトフルな曲者ぞろいである。リンカーン大統領と文通していたというウォーレン少佐はかつて南軍兵舎を焼き討ちして多数の南軍兵を殺害したが、捕虜になっていた北軍兵も同時に大勢死んでいる。ジョン・ルースは生死を問わない賞金首を生きたまま連行し、必ず絞首刑に立ち会うところからハングマンと呼ばれる。クリスは新任保安官と称しているが、元南軍の略奪団の団長の息子。デイジーは強盗団の首領の身内で、いつ仲間が奪還に現れるかしれない。となると、女主人ミニーが留守中の店にいる男たちもみな怪しく、それぞれの素性を暴露しあったり、いやがらせの悪口が飛び交い、吹雪に閉ざされた室内劇が血なまぐさく展開する。
 ウォーレンのサミュエル・L・ジャクソンはタランティーノ作品の常連。マイケル・マドセン、ティム・ロスも複数回出演、将軍役のブルース・ダーンはこのあと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』に老人役で出ている。

ヘイトフル・エイト/The Hateful Eight
2015 アメリカ/公開2016
監督:クエンティン・タランティーノ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リ ー、ウォルトン・ゴギンズ、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブ ルース・ダーン、ジェームズ・パークス、デイナ・グーリエ、ゾーイ・ベル

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