第685回 アーサーズ・ウィスキー
令和七年一月(2025)新宿 新宿武蔵野館
千年以上前、唐の詩人は七十年も生きている人は古来稀なりと言ったので、今でも七十歳になると古稀の祝いをする習慣が残っている。が、稀どころか、高齢化社会となって、七十代、八十代は珍しくなくなった。
七十過ぎても元気溌剌な老人は多い。もちろん、若い頃のようにはいかない。体力が衰え、歩く速度が遅くなり、髪が薄くなり、目や歯も弱り、記憶力が薄れ、持病も増える。それでも気分はまだまだ若い。
英国に住む七十代の仲良し三人組の女性。アマチュア発明家と結婚したジョーン、浮気を繰り返す夫と離婚しスポーツジムに通うリンダ、ずっと独身で料理研究に没頭するスーザン。雷に打たれて死亡したジェーンの夫アーサーが実験室に使っていた納屋。三人で遺品を片付けていると、戸棚の中にウィスキーが見つかり、どうやらアーサーが密造していたらしい。乾杯して目が覚めたら、三人とも二十代の肉体に若返っていた。
三人は大喜びで若者の集うカフェに出かけるが、店内で急に老人に戻ってしまう。若返りの原因はアーサーの密造ウィスキーらしい。発明がなにひとつ成功しなかったアーサーが死の直前に完成した若返り薬。グラス一杯で若返るが、持続するのは数時間だけ。ボトルがまだ数本残っている。そこまでわかったので、三人は若返りを繰り返して、やりたかったことを実行し、残り少ないウィスキー持参で、最後はラスベガスで大はしゃぎ。
ジョーンのパトリシア・ホッジもスーザンのルルも実年齢は七十代後半。リンダのダイアン・キートンはかつてウディ・アレンの初期の作品に出ていた頃、最高にゴージャスな美女であったが、八十近くなった今でも美しい。
私自身、七十を過ぎたので、身につまされることが多い映画である。若返りの薬がほんとうにあったとして、服用したいだろうか。体が一時的に若くなっても、大切なのは過去の思い出と年齢を重ねた今の自分なのだ。
アーサーズ・ウィスキー/Arthur’s Whisky
2024 イギリス/公開2025
監督:スティーヴン・クックソン
出演:ダイアン・キートン、パトリシア・ホッジ、ルル、アディル・レイ、ジェネビーブ・ゴーント、ハンナ・ホーランド、エスメ・ロンズデール、ビル・パターソン、ローレンス・チェイニー、トム・ストートン、ジェイミー・ウィンストン、ボーイ・ジョージ