第683回 レッド・サン
昭和四十七年七月(1972)大阪 阿倍野 アポログリーン
異色西部劇『レッド・サン』が公開された一九七一年の秋、高校三年生だった私は受験を控え、映画どころではなく、結局、観たのは翌年の浪人時代だった。
日本のサムライが活躍するウエスタン、武士が三船敏郎、共演がチャールズ・ブロンソンとアラン・ドロンという三大スターの顔合わせ、監督が007の巨匠テレンス・ヤング。それだけでも大変な話題で、期待はどこまでも大きく膨れ上がった。だが結果として、期待が大きすぎたためか、満足には至らなかった。そして今年、五十三年ぶりに映画館でリバイバル上映されているのを観た。
映画の時代設定は一八六〇年、場所はアメリカの西部。黒船来航から七年後、日本の使節団が咸臨丸で渡米した年であるが、そのあたりの史実には触れず、列車強盗、ガンマン、売春宿、馬と荒野、インディアンの襲撃など西部劇要素が盛り込まれている。
強盗団が現金輸送の列車を襲撃する。この列車に日本の使節が乗っていて、大統領へ贈るための宝刀が奪われる。使節団の武士黒田重兵衛が宝刀を取り戻すため一味を追う。強盗の首領でありながら、仲間に裏切られて負傷したリンクが黒田と同行する。三船の武士はきちんと描かれてはいたが、黒澤の時代劇に出て来るような魅力が全然発揮されていない。そこが一番の物足りなさだった。さらにストーリーも単純で型通り、ひねりも盛り上がりもなく、首領のブロンソンもニヒルな悪役ドロンもみな薄っぺらい。西部劇の面白さもチャンバラのかっこよさもなく、せっかくのアイディアが活かせなかった。
この映画で思い出したのが一九七〇年の日本の時代劇『待ち伏せ』である。三船敏郎、石原裕次郎、勝新太郎、中村錦之助の四大スターがそれぞれ重要な役で、ヒロインが浅丘ルリ子、監督が巨匠の稲垣浩。どんなすごい時代劇になるのかと大いに期待したが、やはり残念な結果であった。『レッド・サン』も『待ち伏せ』も映画館で観られて、まだよかったと思う。DVDや配信で初見だと、どれだけ落胆が大きいか知れない。『レッド・サン』の前に佐藤純弥監督の『荒野の渡世人』があり、高倉健主演の異色西部劇である。
レッド・サン/Red Sun
1971 フランス・イタリア・スペイン・アメリカ/公開1971
監督:テレンス・ヤング
出演:チャールズ・ブロンソン、アラン・ドロン、三船敏郎、ウルスラ・アンドレス、キャプシーヌ、モニカ・ランドール、中村哲、田中浩、アンソニー・ドーソン