シネコラム

第654回 プリティリーグ

飯島一次の『映画に溺れて』

第654回 プリティリーグ

平成五年四月(1993)
池袋 シネマロサ

 

 マシュー・ヴォーン監督の『ARGYLLE/アーガイル』を観て、真っ先に連想したのがジーナ・デイヴィス主演の『ロング・キス・グッドナイト』だった。どちらも女性が主人公のひねったスパイアクションである。私は長身美女が大好きなので、ジーナ・デイヴィスは『ザ・フライ』や『テルマ&ルイーズ』や『靴をなくした天使』など、ずっとファンだが、野球にまったく興味のない私のおすすめが『プリティリーグ』である。
 最初の場面。長身の老女がある会合に出席する。集まった女性たちはみな元女子プロ野球選手。それは米国初の女子プロ野球を讃える記念式典だった。時代は過去へと遡る。
 一九四〇年代、戦争が激しくなり、野球選手たちも戦場へ送られる。そこで男性に代わって女子プロ野球が企画され、スカウトマンが各地を回る。女子草野球の名選手ドティが抜擢されるが、最初の場面の老女ドティもジーナ・デイヴィスの老けメイクだとわかる。
 女子プロ野球のユニホームは観客にサービスなのか短めのスカート。集まったのは農家の姉妹、酒場の踊り子、子連れの人妻、元ミス・ジョージア、不美人の強打者など多彩。トム・ハンクス演じるアルコール依存で膝を傷めた元ホームラン王のドゥーガンがしぶしぶコーチを引き受けるが、やる気がなく飲んだくれる。
 最初は観覧席もまばらだった女子野球が徐々に人気を集め、ドゥーガンは酒をやめ、チームに力を入れる。一場面だけだが、野球のやたら上手そうな黒人少女がちらっと現れるが、声もかけられなかった。黒人選手が第一線で活躍することのない時代だったのだ。姉に劣等感を抱く妹の屈折、ファンと結婚する不美人強打者、みんなを困らせる悪ガキなどエピソードも楽しく、やがて戦争が終結に向かうと、女子野球も不要となる日がくる。最後の試合の場面は見事である。と、野球をほとんど知らない私でも思う。
 時代背景もよく描かれている。山本薩夫監督の『戦争と人間』と同じ戦争をしている最中なのに、敵国アメリカはこんなにも陽気で豊かだったのか。日本は負けるはずだ。

プリティリーグ/A League of Their Own
1992 アメリカ/公開1992
監督:ペニー・マーシャル
出演:トム・ハンクス、ジーナ・デイヴィス、ロリ・ペティ、マドンナ、ロージー・オドネル、ミーガン・カヴァナグ、トレイシー・ライナー、デヴィッド・ストラザーン、ゲイリー・マーシャル、ジョン・ロヴィッツ、ビル・プルマン、ティア・レオーニ

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