シネコラム

第649回 ドリーム

飯島一次の『映画に溺れて』

第649回ドリーム

平成二十九年八月(2017)
六本木 20世紀フォックス試写室

 

 一九六一年、アメリカは宇宙飛行をソ連と競っており、スプートニクがガガーリンの有 人宇宙飛行を成功させたため出遅れ、焦っていた。
 NASAには優秀な科学者が多数集められていて、ほとんど白人の男性だが、黒人女性のキャサリン、ドロシー、メアリーの仲良し三人も数学者として、本部から離れた西の黒人棟で計算係をしていた。最先端のNASAでさえ人種隔離は公然と行われていたのだ。
 有人ロケットを宇宙に飛ばし、無事に地上に帰還させるには、緻密な計算が必要である。黒人女性でありながら大学院で学位を持つキャサリンが抜擢され本部に異動する。本部長のハリソンはキャサリンに重要な仕事を任せるが、一刻を争う大事な時期に彼女がいつも席をはずしているので詰め寄る。どうしていつもいないんだ。彼女は言う。本部には白人用のトイレしかなく、西のはずれの黒人棟まで用を足しにいくので時間がかかるんです。ハリソンはハンマーで白人専用の表示板を叩き壊す。白人も黒人も小便の色はいっしょだ。だれでもすぐ近くのトイレを使え。
 計算係のドロシーは管理職同然の激務をこなしているが、黒人が管理職になる前例はな い。NASAは巨大コンピューターIBMを導入する。コンピューターが動けば、数学者である彼女たちの計算能力は不要となる。それに気づいたドロシーは差別に耐えながら独学でプログラミングを学習し、機械をスムーズに起動させ、IBM室長に就任する。
 メアリーはエンジニアをめざすが、学位の不足で拒まれる。議会を説得して白人の男子学生に交じって就学し、技術部門に配属され、ロケットの遮熱板の不備を解決する。
 一九六〇年代、女性や黒人が重要な地位に就くことは前例になく、却下されていた。だが、前例にこだわっている限り進歩はなく、人は宇宙に飛び出せなかったのだ。
 キャサリンが再婚する軍人ジムを演じたマハーシャラ・アリはその後、『グリーンブック』でドン・シャーリー役として主演、やはり一九六二年が背景の作品である。

ドリーム/Hidden Figures
2016 アメリカ/公開2017
監督:セオドア・メルフィ
出演:タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ、ケヴィン・コスナー、キルスティン・ダンスト、ジム・パーソンズ、オレク・クルパ、キンバリー・クイン、マハーシャラ・アリ、オルディス・ホッジ、グレン・パウエル

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