頼迅一郎(平野周) 頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー

第40回「戦国日本の軍事革命 鉄炮が一変させた戦場と統治」 (中公新書)

頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー40

戦国日本の軍事革命 鉄炮が一変させた戦場と統治 (中公新書) 「戦国日本の軍事革命 鉄炮が一変させた戦場と統治」
(藤田達生、中公新書)

 日本史の時代区分で、中世及び近世は、武士が支配した時代です。武士とは、武人であり、合戦を生業とする人達です。
 しかしながら、同じ武士が支配した時代とはいえ、中世と近世はどのように違うのでしょうか。漠然とですが、中世は支配権力が緩く、曖昧で全体的にざっくりした感じですが、近世は隅々まで支配が行き届いているように思えます。
 西洋史では、中世から近代へと進みますが、日本ではその区分では不十分だとして、中世と近代の間に「近世」という区分を設けたともいわれています。では、中世と近世とは、どのように違うのでしょうか。そして、その違いをもたらしたものは何だったのでしょうか。その疑問に答えてくれるのが本書です。
 本書の副題からも明らかなように、その違いをもたらしたものは、16世紀半ばにヨーロッパから伝えられた「鉄砲」でした。合戦=軍事を生業とする武士たちの動き、すなわち軍事史の観点から述べられた本書は、近世の成り立ち、そして中世との違いを鮮やかに説明してくれます。
 鉄砲は当時にあってはハイテク兵器といって良いものでした。その殺傷力は、弓矢や槍、刀の比では無く、そのうえ大量に使えば使うほど威力を増すものです。
 その鉄砲は、戦争を劇的に変化させ、戦場の風景も一変させました。さらには、大量の鉄砲を生産する鍛冶集団の成立(量産システムの確立)、火薬と鉛玉を確保するための武器商人の活躍、流通範囲の拡大と火気の大量保有、それは戦国大名の城造りまで変えていきます。
 さらには、鉄砲足軽を中心とした軍隊の構造を変え、そのための軍役を支える検地の導入、そして石高制の導入が進められます。大名達は石高に応じて軍役を果たすようになり、石高に応じた支配地の移動を天下人から命じられ、土地と切り離され、やがて天下人の「鉢植え大名」へと変化していきます。
 検地を取り仕切る官僚の出現と彼らによる支配は、軍隊を天下人の軍隊から「公儀の軍隊」へと変化させ、武装国家=江戸幕府の出現へと至るのです。
 日本の軍事革命として、鉄砲の登場とそれを積極的に応用した織田信長から豊臣秀吉を経て徳川幕府完成までを述べた本書を読むと改めてその革命性に納得することでしょう。

 本書を読んだ後で、様々な戦国武将を描いた小説を読むと、また違ったイメージで読めそうな気がします。

 

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