シネコラム

第624回 グロリア

飯島一次の『映画に溺れて』

第624回 グロリア

第624回 グロリア
平成十一年六月(1999)
渋谷 シネセゾン渋谷

 

 グロリア・スワンソンならぬグロリア・スウェンソン役のジーナ・ローランズがとにかく颯爽としてかっこいい。当時、中年や初老のすさまじいおばさんたちを怪奇映画バタリアンに引っ掛けてオバタリアンと呼ぶ風潮があったが、まさにジーナ・ローランズはオバタリアンパワーを発揮していたように思う。年齢は五十前後、長身でスタイルのいい美女ながら、おそろしくタフで、隙がないのだ。
 監督はジーナ・ローランズの夫であり俳優でもあるジョン・カサヴェテス。以前、『ローズマリーの赤ちゃん』でミア・ファーロウの夫の売れない俳優を演じていた。
 ニューヨークの重苦しい風景で映画は始まる。虫のように動く人物をピンセットで取り出すようにして見せるファーストシーン。古いアパートに住む会計士がバック・ヘンリー。妻、母、娘、息子の一家があわただしく荷造りをしている。ギャング組織の金をくすね、FBIに情報を流したことがばれて、逃亡するしかないのだ。
 そこへたまたま同じアパートに住むグロリアがコーヒーを切らしたので、借りに来る。会計士はとっさに幼い息子を彼女に預ける。その直後に一家惨殺事件が起きて、グロリアは危険を察して少年と二人で逃亡するが、組織の追手は容赦しない。そこで、彼女はギャング相手に戦いを挑む。実はかつて組織のボスの愛人だったのだ。身を守るためには相手を容赦なく撃ち殺すタフな女性。圧倒される面白さである。
 後にリュック・ベッソンが監督したジャン・レノ主演の『レオン』はほぼ同じストーリー展開。他にもブラジル映画の『セントラルステーション』や韓国映画の『アジョシ』が似た設定である。おまけにシドニー・ルメット監督がシャロン・ストーン主演でリメイクさえ作っている。が、とてもオリジナルには及ばなかった。
 ジョン・カサヴェテスは早く亡くなったが、ジーナ・ローランズは長生きで、息子のニック・カサヴェテスが監督した『きみに読む物語』に認知症の老女役で出演している。

グロリア/Gloria
1980 アメリカ/公開1981
監督:ジョン・カサヴェテス
出演:ジーナ・ローランズ、バック・ヘンリー、ジェリー・カーメン、ジョン・アダムス、バジリオ・フランチナ、ジョン・フィネガン、ローレンス・ティアニー、ヴァル・エイヴリー、トム・ヌーナン

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