シネコラム

第617回 バービー

飯島一次の『映画に溺れて』

第617回 バービー

令和五年八月(2023)
武蔵村山 イオンシネマむさし村山

 

 昔は女の子が遊ぶ人形は赤ちゃんや幼児の形をしており、女の子はままごとのお母さん役だった。そこに登場したマテル社のバービー人形は大人の女性の形。それもスタイルのいい美女。女の子たちはバービーに自己投影して遊ぶ。
 バービーランドで毎日幸せに暮らすバービーたち。基本形バービーはスーパーモデル体型の美女。演じるはマーゴット・ロビー。マーゴット・ロビーといえば『バビロン』のネリー、『スーサイド・スクワッド』のハーレイ・クイン、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のシャロン・テートなど、エキセントリックな役柄が多い。『アバウトタイム』では主人公をそっけなく振るシャーロット。絶世の美女だが、コメディにも向いており、この映画はマーゴットのための映画でもある。
 バービーランドのバービーたちは深くものを考えることなく、遊ぶのが好き。大統領も医者も作家も工事現場の作業員もみんなバービー。マテル社がいろんな顧客を想定して売り出したバービーには様々な人種、変わり種の太ったバービーもいる。ただし、ボーイフレンドのケン人形はあくまでも添え物にすぎない。
 ある日突然、基本形バービーに変化が起きる。内なる疑問が芽生え、不老不死なのに死について考えるのだ。解決するには現実世界で持ち主を探すしかない。人間界に向かうバービーにケンも無理やり同行する。マテル社の重役室は異常事態に大騒ぎ。バービーがようやく探しあてた持ち主は、大学生になっており、とっくに人形遊びは卒業していた。
 男優先のリアルな現実を目の当たりにしたケンはバービーランドに戻り、大統領に立候補し、ここを男社会に改造しようと、バービーたちを洗脳する。果たして、バービーランドに変化はあるのだろうか。
 それはそうと、かなり以前、うちの娘が幼い頃、トイザラスでバービー人形を買ったことをふと思い出した。着せ替え用の衣服や装飾品、家具、食器、自動車まで次々と揃えたが、今はどこにあるか不明である。それがリアルな玩具の宿命なのだろう。

バービー/Barbie
2023 アメリカ/公開2023
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ケイト・マッキノン、マイケル・セラ、アメリカ・フェレーラ、アリアナ・グリーンブラット、ウィル・フェレル

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