シネコラム

第615回 Pearl パール

飯島一次の『映画に溺れて』

第615回 Pearl パール

令和五年七月(2023)
新宿歌舞伎町 TOHOシネマズ新宿

 

 私は基本的に映画をジャンルで差別しないつもりだ。どんなジャンルにもいい映画とひどい映画はある。好みからいえば、コメディ、SF、アクションはお気に入りの分野。逆にシリアスな病死悲恋ものやゲテモノのスプラッターは苦手である。とはいえ、残酷ホラーでもミア・ゴス主演の『Pearl パール』は出来がいい。『Xエックス』の前日譚で映像も仕掛けも凝っているのだ。『Pearl パール』と『Xエックス』の二作に共通のキーワードは三つ、ホラー、エロス、そして映画である。
 一九七九年を背景にした『Xエックス』では、自主製作でポルノ映画を撮影しようとする若者のグループがテキサスの田舎町の農家を借りたら、そこに住む老夫婦が殺人鬼だったというホラーで、ヒロインを演じた若くて可愛いミア・ゴスが老婆パールの役も特殊メイクで演じていたと知って驚いた。そして『Xエックス』のラストで前日譚『Pearl パール』が予告され、まさか、フェイクではないかと思ったが、実際に作られていたのだ。『Xエックス』の鬼婆パールの若き日の物語で、やはりヒロインをミア・ゴスが演じる。
 時代は一九一八年。テキサスの没落した農園の娘パールは都会に出てダンサーになることを夢見ていたが、父親は車椅子で植物状態、ドイツ系の母親は異常に厳しくパールを罵り、使用人のようにこきつかう。パールにはハワードという夫がおり、農園の婿であるが、第一次大戦で兵士としてヨーロッパで戦っている。
 ミュージカルスターを夢見るパールは家畜小屋で映画スターの名前をつけた牛や羊に話しかけ、歌って踊る。町に父親の薬を買いに出かけ、ついでに映画館に入って楽しみ、映写技師と仲良くなる。土曜の夜には教会でダンサー募集のオーディションを受けるが、世の中は思い通りにいかず、若くて可愛い人妻のパールが狂気を帯びて、ホラーとなるのだ。そして物語は六十年後の『Xエックス』につながっていく。
 私の不満は公式タイトル、なぜ『Pearl パール』なのか。『パール』でいいのに。他に『MEMORY メモリー』『M3GAN ミーガン』など最近は煩わしいタイトルが目立つ。

Pearl パール/Pearl
2022 アメリカ/公開2023
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ、アリステア・シーウェル

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