シネコラム

第604回 生きない

飯島一次の『映画に溺れて』

第604回 生きない

平成十一年十一月(1999)
京橋 フィルムセンター小ホール

 

 よくできた喜劇である。タイトルからすると、黒澤監督の『生きる』を茶化したパロディを連想するが、まったく関連しない別の話で、まず設定が面白い。
 生きる希望を失った人たちを秘かに集めて、沖縄初日の出ツアーが組まれる。途中、事故多発の道路があり、そこで偶然を装って事故を起こし、全員死亡。保険金を遺族に残そうという企み。
 ツアー客はみな借金や難病で苦しんでいる。離婚して慰謝料と子供の養育費のため借金を抱える伊藤が村野武範、大病の子供に金のかかる神田が小倉一郎、悪い女に騙され借金を背負わされた木村が尾美としのり、難病で余命のない矢代が温水洋一、バブルのツケが回って苦しむ野口が石田太郎、倒産寸前の町工場のやりくりに苦しむ小沢が左右田一平、主催した旅行会社の添乗員がダンカン、運転手とガイドは不倫関係が家族にばれて心中するつもり。全員が自殺志望者なのだ。
 ところが、ここへひとり、叔父が精神病院へ入院したため代わりにやって来た大河内奈々子の女子大生美つきが加わる。彼女は沖縄旅行のキャンセルがもったいなくて参加しただけで、自殺ツアーだなどとは夢にも思っていない。知らん顔して道連れにすることになるが、ツアー客たちが死ぬ前に羽目を外してはしゃぎ回り、とうとうばれてしまう。
 せっかくの計画を中止するわけにはいかない。首謀者である添乗員は美つきを睡眠薬で眠らせ、いっしょにバスに乗せ、いよいよ目的の危険な道路へと向かう。自殺を希望しない者がひとり交じっていたほうが計画がうまくいくとのこと。
 ところが美つきが目を覚まし、みんなを説得し、自殺を思い止まらせる。添乗員だけがバスを降りて、崖から飛び下り、自殺。
 そして、ぞっとするようなネタばれ禁止のラストシーン。エンドクレジットにうまいと感心した。

生きない
1998
監督:清水浩
出演:ダンカン、大河内奈々子、村野武範、小倉一郎、尾美としのり、温水洋一、石田太郎、左右田一平、グレート義太夫、岸博之、三橋貴志、砂丘光男、春木みさよ

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