シネコラム

第602回 ミックマック

飯島一次の『映画に溺れて』

第602回 ミックマック

平成二十三年四月(2011)
目黒 目黒シネマ

 

 ダニー・ブーン主演の不思議な味わいのコメディ。監督が『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネなので、登場人物はみんな現実離れしている。
 バジルは子供のとき、アルジェリアに出征していた父を地雷で失う。父の戦死で母は発狂、彼は施設に入るが、そこを逃げ出し、今はレンタルビデオ店の店員。仕事は閑なので商売もののビデオを見ながらせりふをしゃべる。映画はハンフリー・ボガードの『三つ数 えろ』だった。その日、店の前でギャングの銃撃があり、流れ弾が頭に当たって入院。
 入院中に職も家も失くし、後遺症を抱えたままホームレスとなる。出だしから相当に暗い展開だが、映像は全然暗くなく、むしろコミカル。
 川沿いの地下の防空壕のような秘密基地に共同生活しているホームレスのグループがあり、やがてバジルはその仲間に入る。これがまた、みんな個性的。料理番のおばさんや変な発明家、体がくねくねの軟体女など。
 そして、彼は偶然に発見する。父を殺した地雷を作っている兵器会社と自分が遭遇した発砲事件の銃を作っている兵器会社、この二つの企業が道路を隔てて向い合って建っているのだ。人殺しの道具を作って大儲けしているそれぞれの社長が人々の犠牲の上にふんぞり返っている。バジルの中で静かに怒りが燃え上がり、復讐を誓う。
 それを知って、協力するのが、個性派ぞろいのホームレスたち。二社の社長を罠にかける方法は、まるで『スパイ大作戦』である。トム・クルーズの派手なアクション『ミッシ ョンインポッシブル』ではなくて、昔のピーター・グレイブス主演のTVシリーズの味わいがたっぷりなのだ。詐欺のような手口で敵をまんまとひっかける『スパイ大作戦』が、こんなところに命脈を保っていたとは。
 ダニー・ブーンはフランスの喜劇俳優だが、シリアスな外見、『僕の大切な友達』にはダニエル・オートゥイユと共演しており、最近は『パリタクシー』の中年運転手役が印象深い。

ミックマック/Micmacs à tire-larigot
2009 フランス/公開2010
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン、ドミニク・ピノン、ヨランド・モロー、ジャン=ピエール・マリエール、ジュリー・フェリエ、ミッシェル・クレマド、マリー=ジュリー・ボー

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