シネコラム

第580回 トライリュージョン

飯島一次の『映画に溺れて』

第580回 トライリュージョン

平成十年九月(1998)
中野 中野光座

 

 今は家庭用の大型TVがけっこう普及し、また小さなスマホ画面で配信の映画を楽しむ人もいる。時代遅れかもしれないが、私は映画は映画館で観るべきだと、常に思っている。映画館でなくても、試写室でも公共ホールでも映画館と等しければ、もちろんかまわない。
 奇妙な会場で映画を観ると、不思議に印象が深くなる。二十世紀が終わる頃、それはとても暑い九月初旬であった。私は『トライリュージョン』という映画のチラシを見て、かなり気味の悪そうな不思議な映画のような気がし、どうしても観たくなり、中野まで出かけたのだ。
 その場所は、以前は中野ひかり座というピンク系の映画館だったそうだが、とうに廃業し、後に中野光座の名で貸しホールとして演劇公演などに使われていたようだ。おそらく、今はもう存在しないのだろう。
 映画の内容そのものよりも、会場が凄まじかった。客席に椅子はあるが、扉は壊れ、壁は崩れ、元のスクリーンは剥がされているのだろう。正面には白い持込みのスクリーンが仮設されている。ロビーは傾き、トイレはかろうじて水が流れた。空調はなく、小さな家庭用の扇風機が一台、申し訳なさそうに客席で回っていた。だから、ここでの上映そのものが相当にドラマチックだったのだ。映画の内容については、廃墟ならではの効果はあったように思う。
 自主制作の四部オムニバスだが、どれも不気味さを狙っていた。
第一話「夜につかまれる」アパートの隣の奥さんが実は幽霊だったというのを淡々と語る不思議な味わい。
第二話「H・H」諸星大二郎の漫画を思わせるアニメーション。
第三話「奈落の住人」過去に捨てた女の亡霊に山で出会うという不気味さ。
第四話「さばけ…何を? イリュージョン」盲目の寿司職人の物語で四作のうち一番長く、アイディアも面白い。寿司職人がさばくのが実は……。

トライリュージョン
1998
監督:1小林ひろ子、2木村英樹、3武信寛行、4石井友博
出演:1葉月蛍、三浦大輔  3酒井宏人、岩間有子  4北村守、小林ひろ子、前西和成、森健二

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