第576回 ノースマン 導かれし復讐者
令和五年四月(2023)高田馬場 早稲田松竹
シェイクスピアの有名な四大悲劇『ハムレット』『リア王』『オセロー』『マクベス』には当然ながら、歴史書や年代記などにそれぞれ原話があり、中でももっとも有名な『ハムレット』はデンマークの王子アムレートの伝説による。この伝説を北欧神話やヴァイキングとからませて映画化したのが『ノースマン 導かれし復讐者』であり、エリザベス王朝のハムレットと違い、野蛮で荒々しい中世前期の北欧が舞台となっている。
九世紀の終わりから十世紀初頭にかけてのヴァイキング時代。某国の王オーヴァンデルは略奪の遠征から帰国し、王子アムレートと王妃グートルンに迎えられるが、弟のフィヨルニルによる謀反のため殺害される。アムレートはその場を逃れるが、母のグートルンは王位を継いだフィヨルニルの妃となる。シェイクスピアのガートルードがグートルン、クローディアスがフィヨルニルである。
海に逃れたアムレートは復讐を誓い、ヴァイキングの戦士としてたくましく育ち、戦いと略奪に明け暮れる。彼の心には常に父の仇を討つ、叔父のフィヨルニルを殺す、母グートルンを救い出す。この三つの誓いが強く生き続けている。
スラブの地を襲い、物資を奪い、若くて健康な男女だけを奴隷として売買するため拘束し、それ以外の子供や老人は殺害する。
ヴァイキングの情報で、フィヨルニルの一族が国を追われてアイスランドで羊飼いの族長になっていることを知ったアムレートは自ら胸に奴隷の焼き鏝を押し、奴隷たちに交じってアイスランドの叔父の元に売られ、復讐の機会をうかがう。たくましい奴隷として評価され、監督に任命されて、魔術の心得のある女奴隷オルガと結ばれる。
魔法の剣を手に入れ、ようやくグートルンの寝所に忍び込んだアムレートは、母から恐ろしい真相を知らされる。果たして復讐は叶えられるのか。
アムルートを演じたアレクサンダー・スカルスガルドはスウェーデン出身、名脇役ステラン・スカルスガルドの息子であり、『ターザン』にも主演している。
ノースマン 導かれし復讐者/The Northman
2022 アメリカ/公開2023
監督:ロバート・エガース
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ニコール・キッドマン、クレス・バング、アニャ・テイラー=ジョイ、イーサン・ホーク、ビョーク、ウィレム・デフォー