シネコラム

第575回 グリーン・ナイト

飯島一次の『映画に溺れて』

第575回 グリーン・ナイト

令和五年四月(2023)
高田馬場 早稲田松竹

 

 これは石に刺さった剣を引き抜いた少年の物語ではない。ランスロット、ガラハッド、パーシバル、トリスタンたちアーサー王の円卓の騎士にはそれぞれ、様々な逸話や試練がある。『グリーン・ナイト』はそのひとり、ガウェインと緑の騎士の首切りゲームを描いた中世騎士物語である。王の甥でありながら叙勲されず騎士となっていないガウェインは毎日飲んだくれて娼館に入り浸っていた。ガウェインの母はアーサー王の異父姉であり魔術に通じる。おそらくモーガン・ル・フェイであろう。
 クリスマスを祝う王宮で、ガウェインは叔父であるアーサー王の隣の席を譲られる。そこにガウェインの母の魔術によって呼び寄せられた緑の騎士と名乗る魔物が現れる。これはクリスマスのゲームである。われと思わん者は進み出て勝負しろ。わしを打ち負かした者と一年後のクリスマスに再び勝負する。円卓の騎士たちはだれも恐れて名乗り出ない。そこでガウェインが王の剣エクスカリバーを借りて、緑の騎士の首を斬り落とす。
 緑の騎士は起き上がり、自分の首を抱えて言う。一年後のクリスマスに緑の礼拝堂に訪ねて来い。決着をつけ、今度はおまえの首をいただく。
 戦利品として斧を手に入れたガウェインは緑の騎士を退治した英雄として、酒場と娼館に入り浸り、一年間は遊びほうけるが、クリスマスが近づき、斧を携え緑の礼拝堂を目指すことになる。出発の朝、母はガウェインに魔法の帯を渡す。これを身につけていれば、不死身でいられると。旅の途中、少年強盗に襲われて馬や斧や不死身の帯さえ奪われ、野原に縛られ転がされるが、なんとか縄を解き、旅を続ける。湖の近くの屋敷で乙女の亡霊から自分の首を探してくれと頼まれ、湖でしゃれこうべを拾い出し、持ち帰ると、屋敷の寝室に奪われたはずの斧が置かれている。
 やがて、緑の礼拝堂近くの城館に迎え入れられて、城主の妻からの誘惑を拒むが、不死身の帯を与えられ、礼拝堂で緑の騎士と対決する。首を斬られそうになるガウェインの脳裏に、自分が叔父の王位を継いで国を亡ぼす未来像が走馬灯のように一瞬駆け巡る。

グリーン・ナイト/The Green Knight
2021 アメリカ/公開2022
監督:デヴィッド・ロウリー
出演:デーヴ・パテール、アリシア・ヴィキャンデル、ジョエル・エドガートン、サリタ・チョウドリー、ショーン・ハリス、ラルフ・アイネソン

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