頼迅一郎(平野周) 頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー

第23回 図説 常陸武士の戦いと信仰(戎光祥出版)

頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー24

図説 常陸武士の戦いと信仰 (単行本) 「図説 常陸武士の戦いと信仰」
(茨城県立歴史館編、戎光祥出版株式会社)

マンガ、アニメは日本を飛び出して世界規模で受け入れられています。子供の頃に夢中で読んだ『忍者武芸帳』(白土三平)(注1)や『水滸伝』(横山光輝)(注2)等の漫画を知る世代としては喜ばしい限りです。

 同時に中学、高校の歴史の副教材『図説 日本史』等も大好きでした。そこに掲示された時代ごと、テーマごとの図版は、果てしなく広がる時間と空間に展開する熱い漢(おとこ)たちの物語を想像してやみませんでした。(私が男なのですいません。)  今でも山手線などで関東の天気図の移り変わりを見ると、北条・上杉・武田等の戦国大名の版図の変遷と重ねて見てしまいます。

 本作は、南北朝時代を中心に前後の鎌倉時代、室町時代と併せて常陸国の武士たちの変遷を豊富な図版、写真、地図とともに俯瞰したものです。

 題名に関わらず、南北朝時代が中心なのは、平成26年(2014)に刊行した図録『常陸南北朝史―そして、動乱の中世へ―』(茨城県立歴史館)を新たに再構成・再編集したからだということのようです。

 漫画世代の私たちは、ビジュアルでも歴史を感じたいと思いますし、実際に漫画で歴史を学んだ世代にとっては、こうしたビジュアルを重視した本は有り難いのではないでしょうか。

 ちなみに、出版した戎光祥出版株式会社では、この他にも『図説 室町幕府』(注3)『図説 享徳の乱』(注4)『図説 戦国里見氏』(注5)等を出版しています。興味のある方は、手にしてみると想像力を刺激されるのではないでしょうか。

 本書は単なる概説では無く、随所にユニークな視点が登場します。

 一例をあげると、永享10年(1438)幕府に反した鎌倉公方足利持氏は、破れて翌年鎌倉で自害します(永享の乱)。ここでいったん鎌倉公方は滅ぶのですが、持氏の遺児安王、春王を奉じて結城城に立てこもったのが結城氏朝です。

 圧倒的な幕府軍を相手に無謀にも思えますが、本書ではそのときの氏朝の描いた計画を推し量っています。それは以下の3つです。(86~88ページ)

  1. 持氏の遺児を奉じて旧持氏派を結集させる。
  2. 少なくとも関東管領山内上杉氏(持氏を討った張本人)は打倒する。
  3. 室町幕府とは和睦に持ち込み、持氏の遺児をもって鎌倉公方の再興を約束させる。
この考えが、既存の論文等から得られたものか、本書の筆者独自のものかわかりませんが、永享の乱前後の知識がある者にとっては、なるほどと肯けるところがありますし、想像力を大いに刺激されるところです。
特に2.については、後に足利成氏が、上杉憲忠を殺害して享徳の乱が始まる伏線と考えれば面白いのではないでしょうか。
他にもこうした叙述が随所に有り、読み物としても十分に楽しめることでしょう。

 最後に、あまり知られてはいませんが、結城合戦をモチーフに描かれた作品をご紹介します。興味のある方はぜひどうぞ……。

『天下の旗に叛いて 結城氏朝・持朝』(南原幹雄、サイマル出版会、1986。)
その他に新潮文庫、福武文庫、学陽書房人物文庫版があります。↓は、アマゾンの新潮文庫版です。(私は新潮文庫版で読みました。)

(注1)『忍者武芸帳』(白土三平)

(注2)『水滸伝』(横山光輝)

(注3)『図説 室町幕府』

(注4)『図説 享徳の乱』

(注5)『図説 戦国里見氏』

(注6)横山光輝といえば『三国志』が有名ですが、私は全巻を通読していないため今回は紹介を省略しました。また、白土三平といえば未完の大作『カムイ伝』も有名ですが、私が子どもの頃夢中になったのは、『忍者武芸帳』の方でした。

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