頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー21
「戦国佐竹氏 研究の最前線」
(佐々木倫朗・千葉篤志編、日本史史料研究会監修、山川出版社)
本書は、源義家の弟義光を祖に持つ常陸源氏の嫡流佐竹氏の誕生から秋田転封までのおよそ600年にわたる停滞、発展を時代別、テーマ別に整理、叙述したものです。
佐竹氏だけでなく、氏との関わりが深い南常陸の国衆江戸氏、小野崎氏、大掾氏や家臣団の特徴、天下人(信長。秀吉・家康)との関係についても述べられています。
「研究の最前線」というタイトルを読むと、研究者あるいはその予備軍のかたのための本と思われるかもしれません。確かにそうした方達を意識した本ではありますが、一般読者にも配慮された構成になっています。例えばそれぞれのテーマについて述べた後に主要参考文献の紹介がありますが、「さらに詳しく学びたい読者のため」の文献を分けて紹介しています。興味ある段階に応じて読んでみるのも良いと思いますし、紹介している本は、一般書店でも入手可能なものです。佐竹氏に関心のある方にとっては、十分楽しめるものとなっています。
さらには、特別収録として真言宗の僧・宥義(ゆうぎ、佐竹一族)についても述べられています。であれば、私としては佐竹一族の出とされる雪村周継(せっそんしゅうけい)や画家としての佐竹義人にも触れて欲しかったとなあと思っています。
私が本書を読んだのは、以前佐竹氏を扱った作品があって、その後の研究現場のまさに最前線を知るためでした。
歴史小説は最近不調ですが、それでも宇喜多氏を扱った木下昌輝さん(注1)や大友氏を扱った赤神諒さん(注2)など地方の戦国大名を扱った作品がいくつもあります。
日本全国を見ると、戦国時代は多くの大名が活躍していました。佐竹氏や武田氏のように鎌倉時代から続いて、かつ守護大名から戦国大名となった氏族、織田氏や長尾氏(上杉氏)のように守護代から主家を打倒して大名となった氏族、朝倉氏や宇喜多氏のように守護の家臣や国衆から成り上がった氏族等々。そこには多くの人間ドラマがあったことと思われます。
関東でも佐竹氏の他に里見氏や宇都宮氏など興味深い大名があります。
歴史学の最新の成果を取り込みつつ、そこに展開される人間ドラマを描くことは、歴史小説の醍醐味だと思うのですが、みなさまはいかがでしょうか。
本書は、佐々木倫朗・千葉篤志編ですが、日本史史料研究会監修の本でもあります。
日本史史料研究会(注3)とは、「歴史史料を調査・研究し、その成果の公開を目的に」設立された会です。
そのため、本書も題名のように、佐竹氏研究の最新の成果をまとめているわけですが、日本史史料研究会では、他にも多くの「○○研究の最前線」を出版しています。その中には、みなさまの興味をひかれる本があるかもしれません。
(注3)「日本史史料研究会」ホームページ
http://www13.plala.or.jp/t-ikoma/