頼迅一郎(平野周) 頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー

第19回 「禅僧たちの生涯 唐代の禅」(春秋社)

頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー19

禅僧たちの生涯: 唐代の禅 「禅僧たちの生涯 唐代の禅」
(小川隆、春秋社)

 タイトルを見て歴史の新書、専門書のレビューになぜ宗教書が? と驚かれた方もいらっしゃることと思いますが、本書は副題に「唐代の禅」とあるように、中国の唐の時代を中心に禅僧たちはどのように生きたのか、出家と受戒、禅寺の修行の様子と行脚、寺院の組織構成、そして悟りと寂滅等々禅僧の一生について紹介したものです。ただし、一人に焦点をあてているわけではなく、テーマ別にそれぞれ紹介していますので、読み物としても面白いです。
 周知のように、禅宗は天竺から達磨大師が伝え、その後唐代(618年~907年)に流行し、宋代(960年~1279年)に完成したといわれています。日本では、栄西の伝えた臨済宗、道元の伝えた曹洞宗が名高いですが、よく考えれば、中国で最も充実した時代の禅宗だったことがわかります。ただし、本書はそれ以前の唐代の禅僧を中心に紹介しています。
   最近、2020年に『震雷の人』(注1)で千葉ともこさんが、第27回松本清張賞を受賞しました。また、2022年には『夢現の神獣 未だ醒めず』で武石勝義さんが2022年(2023年)に日本ファンタジー大賞を受賞しました。この作品は中華幻想ファンタジーのようで、中国を意識した作品となっているようです(本年刊行のため、雑誌『新潮』紹介の情報のみ)。中国小説ブームの兆しでしょうか。
 中国といえば、金庸等原作の武侠ドラマ(小説)が有名ですが、ドラマを見ると仏教の影響が強いことがわかります。さらに作中に少林寺が頻出しますが、これは嵩山少林寺(中国河南省)が、達摩大師による禅宗の発祥の地と伝わると同時に少林拳を伝えているからと思われます。
 しかしながら、日本では少林寺あるいは少林拳を取り上げた作品は少なく、私の知る限りでは故陳舜臣の『珊瑚の枕 風雲少林寺』(注2)のみではないでしょうか。
 さて、禅僧と言えば奇矯な行動や難解な問答で有名ですが、本作でも禅僧の思想が紹介されています。ただ、作者がわかりやすく解説しているため、それほど苦労することはないでしょう。
 宗教といえば、やはり最後は死をどのように迎えるかだと思われます。私もシングルで高齢者の仲間入りをしていますが、死をどのように迎えるかは大きなテーマです。
 本書では、むすびとして禅僧の死を取り上げていますが、その章は、
 ――我々の生まれ方は一つ、死に方はさまざま。
 という言葉で結ばれています。(P301)

 余談ながら、中国小説の第一人者といえば、やはり宮城谷昌光さんではないでしょうか。
 私も氏の小説は大好きでほとんどを読破しています。
 最近は、月刊誌『新潮』で「公孫龍」を連載中です。

 

(注1)『震雷の人』(千葉ともこ、文春文庫)
※  千葉ともこさんは、2022年『戴天』(文藝春秋)で、当会主催の第11回日本歴史時代作家協会賞(新人賞)を受賞されています。

(注2)『珊瑚の枕 風雲少林寺』(陳舜臣、中公文庫)
『珊瑚の枕』 (上巻) (新潮文庫)
※  上下巻に分かれているため、リンクは上巻のみとしました。

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