シネコラム

第560回 東京おにぎり娘

飯島一次の『映画に溺れて』

第560回 東京おにぎり娘

平成二十二年年八月(2010)
神保町 神保町シアター

 若尾文子の出演する映画は一九五〇年代から一九六〇年代がほとんどで、私が映画をたくさん観始めた一九七〇年代以降には主演作はほとんどない。ただ一九七五年にフジTVで放送された倉本聰脚本のドラマ『あなただけ今晩は』に私は夢中になり、それで若尾文子が大好きになった。
 名画座などで古い日本映画を観る機会が増えたのは一九八〇年以降、最初に観た若尾の出演作は『初春狸御殿』のお姫様だった。次が『座頭市と用心棒』の宿場町の酒場のおかみ。その後は増村保造特集で主演作をたくさん観たが、男に踏みつけにされる悲劇のヒロインはどうも苦手である。
 一九六一年の『東京おにぎり娘』は私好みの明るいコメディで、新橋で小さな洋服の仕立屋を営む頑固親父の鶴吉が中村鴈治郎。その娘のまり子が若尾文子である。上方歌舞伎の名優中村鴈治郎はこの当時、映画にもたくさん出ていた。新橋で長年洋服屋をやっているのに大阪弁丸出しで、「大阪生まれの江戸っ子や」という設定が大いに笑えた。
 娘のまり子はいかにも江戸っ子の典型、竹を割ったように気風がいい。昔の東京には、こんな素敵な女性がいっぱいいたんだろうと思わせる。
 鶴吉の商売が思わしくないので、まり子が店をおにぎり屋に改装して、繁盛する。これにいろいろと恋模様が絡んで、なかなかうれしい一本なのだ。まり子に絡むのが若手の舞台演出家で演劇青年の川口浩、鶴吉の元弟子で既製服会社の社長が川崎敬三、まり子に岡惚れの町の遊び人がジェリー藤尾。演劇青年に失恋したまり子がべろべろに酔っ払う場面、これがなんとも素晴らしい。
 当時の新橋界隈の風景が次々と映し出されていくのも見ものである。
 私は若尾文子の他にも香川京子司葉子岸恵子岡田茉莉子南田洋子池内淳子雪村いづみなど、一九六〇年代に活躍した日本の美人映画スターが大好きだが、みなさん、一九三〇年代生まれである。

東京おにぎり娘
1961
監督:田中重雄
出演:若尾文子中村鴈治郎川口浩ジェリー藤尾川崎敬三、叶順子、藤間紫伊藤雄之助沢村貞子八波むと志

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